第11章 忍びの庭 前編(佐助)
「それはどういう…」
三成は言葉の意味を図りかね、言葉を失くす。
『お前の鈍感さも、ここまで来ると才能だな』
光秀はいつまでも人の悪そうな笑みを浮かべていた。
『三成では聞くが、もし愛が安土を去る事になったら
お前は普通でいられるのか?』
「そ、そんな事は…。光秀様は、愛様は敵の間謀ではないと
仰っていたではないですか…」
三成は、光秀の質問に驚きを隠せないでいる。
『誰が間謀だから安土を去るなどと言った?
そもそもあの女子は、どこからともなく現れたのだ。
忍びと共に去ってしまっても、おかしくはあるまい。
お前も、それを一番恐れているのではないか?だから、あの忍にも執着を…』
「光秀さま!」
三成は光秀が全てを言い終わる前に、普段は出さない声をあげた。
「私は…秀吉様の家臣であり、織田軍の参謀です。
もし、愛様が上杉軍に捕らえられたならば、
織田軍の情報が漏らされる可能性が高い…」
苦しそう声を出す三成を、光秀は黙って見つめている。
「それならば…」
『それならば?』
「私が、愛様を全力でお守りし、万が一連れ去られたとしても、
命をかけて奪い返す。ただそれだけです!」
真剣な眼差しで光秀に言い切る。
『もし、愛が忍びと恋仲であってもか?
お前に、それを引き裂くことができるのか』
光秀は笑みを潜め、真剣な眼差しを返した。
「もし、愛様に悲しい思いをさせてしまった時は…
私の生涯をかけて、愛様の傷を拭いましょう。
私は…愛様を…」
ーお慕い申し上げておりますー
口から突いて出そうになった言葉に、
三成自身がハッとする。
『漸く気づいたか。三成。
お前の抱える衝動は、忍びに対する嫉妬だ。
珍しいこともあるのだな。三成が私情を挟むなど…』
「わ、私は…」
『まぁ、俺にとってはお前の私情など、どうでもよい。
敵方が織田を偵察し、忍び込んでいるのは間違いない事実だ。
これまで通り、斥候を送り監視は続ける。
お前は、しっかり愛を見張っておけよ』
そう言うと光秀は出て行ってしまった。
愛と佐助の二度目の接触の話はあえてしなかった。