第11章 忍びの庭 前編(佐助)
『三成、いるか?』
政宗との夕餉を終えた夜、三成の元へ訪れたのは、光秀だった。
「光秀様!こんな時間にいらっしゃると言う事は、
何か動きがあったのですね」
三成は、夜遅い光秀の訪問に緊張感を持った。
『さすが、察しがいいな。三成は話が早くて助かる』
そう言うと、ニヤリと笑みを携え、三成の前に座った。
『今日、例の忍びが、二度ほど愛と接触している』
「二度!…ですか?」
三成は、驚いて目を丸くする。
『あぁ。一度目は、俺たちが軍議をしていた夕刻。
秀吉の家臣が、愛は不在だと言っていたな』
「えぇ。直後、慌てて探しに行きましたが、結局御殿の近くでしか落ち合えませんだした」
三成が悔しそうに唇を噛む。
いつもは冷静な三成の、そのような仕草に光秀は心底驚いたように口を開く。
『戦の時もお前のそんな顔を見たことはないな。
三成、お前本当に敵の忍びに対してだけの感情か?』
完全に面白がって言っているのだが、三成には何のことかわからない。
「 他に、どの様な感情があると申されるのです?」
キョトンとした目で光秀を見ると、光秀は堪え切れないとばかりに
くくくっ…
と、声を漏らした。
『忍びの者が接触しているのが、愛ではなく、
ただの女中でも、お前はそんな顔をするのかと思ってな』
光秀の言葉に、三成は真剣に考える。
秀吉の御殿近くで愛を見つけた時は、
身体中の力が全て抜けるのでは無いかと思うほど安心した。
戦中でもないのに、町中をあんなに走ったことはあっただろうか。
自分の行動の意味が、自分でもわからずに、
門前で秀吉の顔を見るまでずっと考えていた事を思い出した。
「実は…衝動の様な感情が、腹の底から突き上げて来る時があるのです。
今日も愛様が居ないと聞いた時、
私がやらなければならなかったことは
真っ先に情報収集だったのですが、居てもたっても居られず、
城下に飛び出してしまいました…」
三成は相変わらず苦悩の表情を浮かべている。
「あの時まず御殿に戻り、女中に話を聞けば、
すぐに愛様を見つけられて、忍びとの接触も避けられたでしょう」
『お前は、敵の忍びが憎いのか、愛と接触する男が憎いのか、
どっちかわかってるのか?』
未だ笑みを絶やさず光秀が言う。