第11章 忍びの庭 前編(佐助)
「失礼します…」
愛は、飛び出してしまった広間に戻っていた。
襖の外から声をかけると、中から
『ほら、戻ってきた』
と声がして、シュッと襖が開き。
愛の目の前には政宗が立っていた。
「政宗…さっきはごめんなさい…」
深々と頭を下げる愛に、政宗はわざと不機嫌な声で
『許さねー』
と、言った。
愛は、何も言えず、頭を下げたまま動かない。
『おい…愛…』
少しからかってやろうと思っていた政宗も、
流石に慌てて、名前を呼ぶ。
「おい、政宗、許してやれよ…」
『政宗様…もうよろしいのでは…』
奥からは心配そうな秀吉と、三成の声も聞こえた。
『いや、冗談だから…顔、あげろって』
政宗が無理矢理愛の顔を上げさせる。
「ごめんね、政宗、何にも悪くないのに…
私の八つ当たりだった…」
『仕方ねーな。じゃあ…
許して欲しければ、お前の膳、全部平らげろ』
そう言うと、愛の頭をクシャっと撫でた。
『ほら、早く座れ』
秀吉が優しい声で愛を促す。
「愛さま、みんなで一緒に食べましょう!」
モヤモヤの一番の原因である三成も、
いつものように屈託無く笑顔を送っている。
(何で…私、三成くんにこんなにモヤモヤするんだろう…)
「秀吉さんも、三成くんも、今日は色々とごめんなさい…」
『お前、仕事に集中しすぎて、気が立ってるんじゃないか?
少しは息抜きもしろよ?』
秀吉が心配そうな声に、愛は眉尻を下げ頷いた。
(息抜きも兼ねて、出かけたんだけどな…)
『愛、出かけるときは三成に声かけてやれよ?
いつも冷静な三成が、あんなに素で取り乱すこと無いんだからな』
政宗が半分呆れ気味に言う。
(え?素で?)
その言葉に少し驚いて三成を見ると、真剣な顔で愛を見ていた。
「愛様に何かあったらと思ったら…
考えるより先に身体が動いてしまいました…こんな事は初めてです。どうしてなんでしょう…」
三成は本当に自分の行動の意味がわかっていないようだったが、
秀吉と政宗は顔を見合わせ、政宗は面白そうに笑い、秀吉は苦笑いを浮かべ
『まぁ…なんでもいい、早く食べろよ、愛』
と食事を促した。