第11章 忍びの庭 前編(佐助)
佐助と別れ、みよしのの店内に入ると、
にこにこと主人が迎え入れてくれる。
『これはこれは、愛様!
おや、可愛いお方と一緒なのですね。順調に進んでいますか?』
「はい!今、二着目を縫いはじめたところです。
少しここにウリを括らせて下さい」
入り口の土間の邪魔にならなそうな柱にウリを括る。
愛の言葉に主人は少し驚いた様に、
『もう仕立て終えたものがあるとは、
やはり愛様は腕のいい仕立屋なのですね』
と、括られたウリに笑顔を向けながら言う。
愛はその言葉に、少し照れながら答える。
「いえ…それしかやる事がないんですよ。
やり出すと止まらなくて、みんなに心配かけちゃうし…」
『いやぁ、本当に出来上がりが楽しみです。
当日は、私もお招き頂きましたので、皆様にお目にかかれればと…』
目を細めながら、主人が顔を最大に綻ばせる。
「そうだったんですね、では余計に気合い入れないとですね!」
愛もにっこり笑って言う。
『今日はどうなさいました?』
「刺繍に使う銀色系の糸が足らなそうなので、買い足しに来たんです。
見させてもらってよろしいですか?」
『えぇ。もちろんですよ、どうぞごゆっくりお選び下さいね』
そう言うと主人は、刺繍糸を沢山並べだした。
「直ぐ帰らなきゃだけど…見ると色々欲しくなっちゃいますね…」
つい、時間を忘れて見入りそうになると、括られたウリが、
〈キキっ〉と声をあげる。
「ごめんね、ウリ。すぐ選ぶからね」
眉尻を下げながらウリに向かって言う。
『まるで、ウリ様は秀吉様の様ですね。
しっかり愛様の面倒をみてらっしゃる』
主人は面白そうにクスクスと笑いながら愛とウリを見る。
「もう、やめて下さいよ。私がウリの面倒みてるんですよ?」
少し頬を膨らませて拗ねる様に言う愛を見て、
『本当に愛様は豊かな表情をなさる。
石田様や秀吉様のお気持ちがよくわかります』
と、主人が微笑んだ。
「え?」
愛がキョトンとすると、
『いえいえ、何でもありませんよ。
さぁ、皆様がご心配なさる前に選んでしまいましょう』
主人は不思議そうな顔をする愛を、促すのだった。