第11章 忍びの庭 前編(佐助)
『ウリもご一緒に?』
女中が不思議そうに訊くと、
「はい。今日は三成君も秀吉さんもいなくて、
私もあまり構ってあげられてないので、お散歩がてら行ってきます!」
〈キキっ!〉
『あらあら、すっかりウリは愛様がお気に入りですね。
わかりました。気をつけて行ってらっしゃいませ』
そう言うと、玄関まで見送ってくれた。
すっかり外は夕方の様相だが、数日部屋にずっと篭っていた愛は、
外の風に当たると大きく腕を広げて、深呼吸をした。
「うーん!外は気持ちいいね、ウリ。
見て?電線が一本もない空だよ?」
ウリは、言葉がわかっているかのように、首を傾げている。
そんなウリの様子に微笑みながら、歩みを進めた。
「うふふ…。電線わかんないよね、ウリには。
私のいる所は空が狭くて、ビルばっかり…」
思い出す事もあまりなかったが、元いた世界を久しぶりに思い描く。
「帰っても…誰もいないけど…
でも、私には佐助君がいるから、大丈夫。
佐助君がいたら、どこでも大丈夫だけどね…えへへ」
ウリを相手に、想いを口にしてみれば、
思いの外恥ずかしくなってしまって、照れ笑いをする。
『俺も…今ちょうど同じ事を思ってた。
やっぱり昔からずっと一緒だからかな』
不意に、独り言への返事が返ってきてギョッとする。
しかもその声は、今まで自分の中で思い浮かべ、胸を高鳴らせていた相手の声…
「さっ…さっ…!」
驚きすぎて、上手く名前が呼べなくなっている愛の背中を、
優しく撫りながら、
『落ち着いて。息を吐いて。ゆっくりゆっくり…』
佐助は冷静に、しかしとても優しい声を出す。
ふぅぅぅ…
『はい、大きく吸って?』
すぅぅぅぅ…
『はい、吐いて。…うん。落ち着いた?』
愛の顔を覗き込む佐助の口元は、愛にだけわかる綻びを見せていた。
「佐助君!どうしたの?」
漸く訊きたい言葉が口から出て、少しホッとする。
『君が、いつか出てこないかと少し離れた所から毎日偵察していたんだ。
でも今日は、石田三成も秀吉さんも外出したのを見て、
君に会える気がしたから、ここで待ってたんだ』
「何かあったの?!」