第11章 忍びの庭 前編(佐助)
午後になると、秀吉は城に出かけていった。
三成は、なぜか愛が一人になることを朝から気にしていたが、
「あの調子じゃ、部屋から出てこないだろう?」
という秀吉の言葉に納得したようだった。
「三成のやつ、なんでそこまで愛の事が気になるんだ?」
秀吉は腑に落ちないも、軍議のために城へと出発した。
愛は、ウリと一緒に秀吉を見送ると、
すぐに仕事部屋に戻った。
「ウリ、ごめんね、今日はお散歩行けないからここで過ごそうね」
そう言いながら、縁側の柱に紐を結ぶと、寝床の座布団を置いた。
ウリは、聞き分けよく座布団に座ると、春の風を浴びながら眠たそうにしている。
「ふふふ…お利口さんだね。
さて、続きをやりますか!」
気合いを入れるように言うと、また着物に向かった。
出来上がっている光秀の晴れ着は、薄い水色とから白へと色の変わる
光沢のある折り目が綺麗な反物で作った。
いつも闇に紛れるようにしてコソコソと間諜を務める事が多いが、
愛は皆が言うほどの怪しさも感じておらず、
時折見せる本当の優しさが、より一層爽やかに見える時がある。
晴れの日こそ、そこを十分に出して欲しい。
そんな気持ちから選んだ生地だった。
そして、金糸といっても仰々しくならない色を使って、
藤の花をあしらった。
藤の花の花言葉は〈優しさ〉
心の奥深くにしまっているつもりなのだろうと思うが、
光秀の意地悪な言葉は、いつもどこかに優しさが隠れている。
愛はそう思っているからだ。
そして、秀吉の生地は鮮やかな緑と白が流線を描いて大胆に色付けされている。
鮮やかではあるが、毒々しくなく、森を見上げる木漏れ日のような色。
いつも温かく、時に厳しく、深い愛情で見守ってくれている秀吉の色。
流線は、力強い川の流れのようでもあり、優しく気品を持ったようでもあり、
愛はこの反物を見た時に、一目で秀吉に、と思った程だった。
ひと針ひと針、丁寧に縫い合わせていく。
みんなが喜んでくれますように…と。
夢中になると周りは見えなくなるが、流石に陽が傾いてくるのは気づく。
大体の形を作り終えたのは、あと半刻ほどで陽も沈むだろうかと言う頃だった。