第11章 忍びの庭 前編(佐助)
次の日、愛は朝から机に向かい、
出来上がった秀吉の晴れ着のデザインに、色をつけていた。
(うーん。色を塗って見ると、ここの刺繍は金よりシルバーの方がいいかも…)
頭の中に浮かんだ物を、全て紙の上で形にしていく。
(あ!そっか、金から銀にグラデーションにしていけば…でも糸が足りないかも…)
反物と一緒に買い込んだ刺繍の糸に目をやった。
(とりあえず縫ってしまってから、足りない時は買いに行けばいいか)
物凄い集中力でデザインを描きあげていたので、襖が開く音には気づかなかった。
『愛』
「・・・」
『愛!』
「・・・」
秀吉は、大きめの声で呼ぶが、一向に愛は気づかない。
『全く…本当に三成の女版だなぁ…』
一つため息をつくと、今度は近くまで寄り、肩を叩きながら
『愛、聞こえてるのか?』
と、呼びかけた。
「うわぁ!」
急に大きな声をあげた愛に秀吉もビックリしたのだが、
「もう、秀吉さん!ビックリするじゃない!」
愛はそれよりも、目を丸くして飛び上がらんばかりに驚いた。
『わ、悪い。入ったら怒られると思って、入り口で、何度も呼んでいたのだが…』
「そ、そうなの?ごめんなさい気づかなくて…」
まだドキドキと脈打つ心臓に手を置きながら、愛が謝る。
『いや、いいんだ』
やっと落ち着いた愛は、目の前の秀吉の存在を改めて認識すると、
「あ、だめ!見ちゃダメ!」
と、慌ててデザインの紙を裏返しにした。
『だ、大丈夫見てないから!』
愛の慌てぶりに、再び驚いた秀吉は慌てて机から目を逸らした。
(ごめんな…本当は気になってちょっと覗いてしまったんだが…)
「なら良かった…。で、何か用だった?」
『あ、あぁ。今日は、三成は城で仕事があって、俺も午後には軍議もあるから、
ウリをこっちの部屋に置いてやって欲しいんだ』
愛は、パチパチと瞳を瞬かせ、
「それだけ?」
と、首をかしげた。
『あぁ、それだけだ。お前の邪魔にならないように、柱にでも繋いで置いてくれ』
「うん!わかったよ!」
『じゃぁ頑張れよ』
そう言うと、秀吉はポンポンと愛の頭をなで、踵を返した。