第11章 忍びの庭 前編(佐助)
夕餉が秀吉の部屋に用意されているのに、
三成と愛が中々やってこないので、
『秀吉は、仕方がないな』
と呟いて立ち上がり、襖を開ける。
廊下に出ると、二人が揃って此方へ向かおうとしているようだが、
ちょくちょく立ち止まって何か話をしている。
(相変わらず、あの二人は仲がいいんだな…)
廊下を歩いてくる二人を眺めながら、
秀吉は少しだけ羨ましいような、三成へ対する嫉妬のような、
言い知れぬ気持ちを今でも抱いていた。
それは、愛を御殿に置くようになってから、
より一層増したかもしれない。
(また三成はウリを持て余したのか…)
秀吉は苦笑いを浮かべて、
何故か全く三成に懐かないウリを、
きっと愛が面倒見ていたんだろうと想像する。
(愛にはよく懐いているからなぁ。女の子なのに不思議なもんだ)
『ほら、早くしないとさめるぞ!』
秀吉の声に、
「はーい!」
と、笑顔で愛が片手を振る。
その隣では、三成もニコニコと笑顔を見せていた。
『なんだかな……』
呟くと、秀吉は踵を返した。
『愛様、夕餉の後はお仕事なさるのですか?』
昼餉の時に秀吉に見せていたものとは全く違う表情の三成が、
愛に質問している。
「ううん。今日はゆっくりして、明日からまた頑張るよ。
秀吉さんにも、三成くんにも、心配かけちゃうしね」
『いい心がけだな。休むときはしっかり休めよ?』
愛の言葉に秀吉も、目を細めながら頷く。
『では、愛様、私に少しお付き合い頂けませんか?』
未だニコニコの顔を崩さない三成が、愛に言う。
キョトンとした顔の愛は、
「いいけど、何か用事?」
『おい、三成、愛をゆっくり休ま…』
「大丈夫です」
心配そうな秀吉の言葉を遮り、三成が笑顔で言葉を続ける。
『昨日、またこれを頂いたのです。
愛様と一緒に、やれたらと思いまして』
懐から紙の包みを取り出すと、中から線香花火を取り出して見せた。
「わぁ!やりたい!」
一気に花が咲いたような笑顔を見せる愛に、
秀吉は見惚れるとともに、こんな笑顔にさせられる三成が羨ましかった。