第11章 忍びの庭 前編(佐助)
次の日から、愛は与えられた仕事部屋で一日のうちの殆どを過ごした。
その集中力は凄まじく、愛を気にかけ度々声をかける秀吉にも気づかず、
女中が部屋に入り、目の前で話しかけ漸く気づく。
三成も一度何かに集中すれば、誰の声も届かなくなるため、
秀吉は、今まで以上に二人の世話を焼くこととなった。
愛が秀吉の御殿に来てから、五日が経った昼餉時の事。
秀吉は、女中を呼びつけ、早めに三成と愛に声をかけるように促した。
「ここから直接呼んでくれ」
秀吉は、自分の部屋と襖を隔てただけの愛の部屋に視線を向ける。
『畏まりました』
険しい顔をしている秀吉とは対照的に、
優しい笑顔を携えて女中は愛に声をかけようと襖に近寄ると、
「できたーーーー!!」
中から愛の素っ頓狂な声が聞こえて来たので、
女中も秀吉も心底驚いた。
「な、なんか仕上がったみたいだな…」
『そのよう…ですね…』
二人は顔を見合わせて呟くように言う。
「ん?今度は静かすぎないか?」
大声が聞こえた後の愛の部屋は妙に静かだった。
『愛様?入りますよ?』
女中が声をかけて襖をあけると、
『まぁ!愛様!』
出来上がった着物を抱きしめ、周りに絵が描かれた紙をちりばめ、
部屋の中央に倒れている愛が目に入る。
「どうしたんだ?!」
女中の様子にただならぬ事と思った秀吉は、
愛には止められていたが、部屋に入り込む。
「愛!」
女中は既に愛の身体を抱きかかえていたが、
声を潜めて秀吉に微笑む。
『大丈夫ですよ。うふふ…。
気持ちよさそうに寝てらっしゃいます』
「はぁ?」
秀吉は自分でもビックリするくらいの間抜けな声を出す。
『連日、お部屋にお戻りになられても、
明け方まで縫い物をしてらっしゃったようですからね』
「そうなのか?全く…しょうがないな。
悪いが、そこに布団を敷いてやってくれるか」
『はい。すぐにご用意しますね。
その前にこちら…かけないと皺になってしまいますね』