第11章 忍びの庭 前編(佐助)
秀吉の部屋へと向かう途中、歩はとめず女中は声をかける。
『愛様、私は女中ではございますが、
御用のない時でも、話し相手にはなれますからね?
何かあったら、遠慮なさらずにお声掛け下さい』
振り返りながら優しく微笑む。
その言葉に驚いた愛だったが、
「ありがとうございます。とっても心強いです」
と、素直に感謝した。
(そうだよね…。私は一人じゃないから…。
みんなが優しくしてくれる。いちいち落ち込むの、良くないよね)
秀吉の部屋の前に来ると、
『愛様をお連れ致しました』
と声をかけ、女中は襖を開けてくれた。
「お待たせしちゃってごめんなさい」
と、中に入れば、
昼に負けず劣らずの豪華な食事が並べられていた。
「わぁ、凄い豪華…」
目を丸くする愛に、
『今日は疲れただろう?沢山食って、今日は早く休むんだぞ』
秀吉の温かい言葉がかかる。
三成の隣に腰をおろすと、
『今日は本当にお疲れ様でした』
と、三成も声をかける。
『いいのあったか?』
口元を緩ませて訊く秀吉に、
「良いものしかなくて、選ぶの大変だったよ!」
と答える。
食事の間中、秀吉は反物屋でのことを色々聞き、
愛も嬉しそうに答えた。
三成は、
『食事の時間が、こんなに待ち遠しく感じることもあるのですね』
と、顔を綻ばせる。
「あ、そうだ。反物も晴れ着も、出来上がるまでは誰にも見せないからね」
愛が得意げに言うと、秀吉も三成も残念そうな顔をしたが、
「楽しみは取っておいた方がいいでしょ?
だから、作ってるとこも覗いちゃダメだからね」
と、愛は念をおす。
『愛様のお顔が中々見られないとなると、
ますます食事時に遅れられませんね』
と、三成は真剣な顔で言う。
『そうだな。まぁ、三成にとっては良いことのような気もするが…
根を詰めすぎるなよ』
秀吉は並んだ二人の世話焼き二大巨頭を見て、小さく息を吐いたのだった。