第11章 忍びの庭 前編(佐助)
『愛様、昼餉の用意が整いましたよ。
お二人ともお待ちでございます』
襖の外から、女中の優しい声が響いた。
「はい。すぐに参ります」
(あんまり考えすぎると、本当に全部顔に出ちゃうからね…
着物の事だけ考えよう!!)
愛は、両手で頬を一回パンと叩くと、
気合いを入れるように昼餉の部屋へと移動する。
「ごめんね、お待たせしまし…た…。え?凄い!」
そこには、昼餉とは思えない色とりどり、豪華な食事が並んでいる。
「どうしたのこれ?!」
愛の驚く顔に、秀吉と三成は顔を合わせて満足げな表情を浮かべていた。
『愛様はきっと、反物を選びに行かれましたら、
夜はお部屋から出てこられないのではないかと思いまして、
昼餉で歓迎会をご用意致しました』
三成が、愛に屈託のない笑顔を向ける。
『だからって、夕餉を食べないのは駄目だぞ?』
秀吉も、優しい目で続けた。
「ありがとう。なんか…照れるね」
『さ、こちらにお座りください』
秀吉と向かい合うように、三成の隣に促される。
『ほら、沢山食べろよ?食事に興味のない三成は、
俺より先にここで待ってたんだぞ』
「え?!ごめんね、沢山待たせちゃって。
お腹すいたよね」
『愛様と食べる食事は、本当に美味しいですからね。
お待ち申し上げておりました』
ニコニコと話す三成に、嘘はないように思えた。
(やっぱり…信用していいんだよ…ね?)
優しい二人の様子に、素直になれず、複雑な気持ちを抱えてしまう。
『どうした?愛』
秀吉に声をかけられハッとする。
(まずい!またやっちゃった…)
「ううん。
着物を作らせてもらえる上に、こんなにしてもらって…
なんだか申し訳無くなっちゃうなって」
(誤魔化せたかな…)
『そんなことは気にするな。ほら、折角用意してくれたんだ、
冷めないうちに食べよう』
「うん!そうだね。ありがとう。
いただきます」
愛が膳の前で手を合わせると、秀吉も三成も、
愛の真似をするように手を合わせた。
『今日はまた、飛び切り美味しい気がします!
この煮物は、芋の味がしますね!いつもしてたのでしょうか』
嬉しそうに言う三成に、秀吉と愛は顔を見合わせ吹き出した。