第11章 忍びの庭 前編(佐助)
一通りの事を終え、今日から自分の部屋になる場所へ戻ってきた愛は、
さっそく持ってきた紙束と色鉛筆を出す。
(佐助君が、この事知ったら驚くだろうな。
一緒に喜んでくれるは…ず、あれ?)
愛は漸く、事の重大さに気づく。
ただでさえ、安土城は佐助の侵入を拒んでいる。
そんな中、先日の野原では、漸く忍び込む場所を見つけたと言っていた。
だが、愛の部屋までのルートを見つけられたとしても、
そこにいないのでは意味がない。
でも現状、自分が秀吉の御殿にいる事を伝えるすべがないのだ。
(どうしよう…。私が居ないのに忍び込んで、
もし万が一捕まっちゃったりしたら…)
さっきまでの浮かれていた自分が恨めしい。
もし、この事を伝えられたとしても、ここには常に三成もいる。
(まさか…だよね?)
ふと、愛に一つの疑念が湧く。
もしこれが、自分が知らないうちに仕組まれた事なのだとしたら…。
でも、確かに広間でみんなは、自分の晴れ着を楽しみにしてくれていたはず。
だけど、それが全部芝居だったら?
(ううん。そんな事ないよ…きっと…
秀吉さんの優しさも、家康や政宗の言葉も嘘だなんて信じたくない…
光秀さんだって、いつも見せない笑顔をくれた。三成くん…
私、信じて…いいよね?)
けれど、一度浮かんでしまった疑念は、中々晴れてくれない。
(佐助くん…私、どうしたらいいの…)
取り出した色鉛筆を眺めて、ため息をつく。
紙束をめくれば、孤独な時間を埋めた自分の絵が次々と出てきた。
そして、あるページで手を止める。
それは、いたずらに想像した武将たちのスケッチ。
いつもそれぞれの好みの色しか着ない武将たちに、
自分のデザインした着物を着させている絵。
そして、愛は決心する。
もし、これが仕組まれた事だとしても、
みんなの晴れ着は心を込めて作ろう。
自分が出来る、唯一の恩返しだから…
「よし。ウジウジしてても仕方ない。
私が下手に探ったら、余計危ないかもしれないからね」
小さく呟くと、佐助の色鉛筆を取り出す。
(でも、チャンスを見つけてどうにか伝えないとな…)