第11章 忍びの庭 前編(佐助)
『さっき、秀吉さんのとこに届け物に行ったら、
あんたが此処に来てからだいぶ帰ってこないって心配してた』
「え?」
『呑気なあんたの事だから、ぐーすか寝ちゃってるかと思ったけど』
少し口元を綻ばせているように見えて、
つい愛は、
「笑った…」
と漏らしてしまう。
家康はハッとして、すぐいつもに顔に戻り、
『寝てなくても、呑気な顔して馬鹿みたいって思っただけ。
ほら、さっさと帰れば?手伝いに行って、心配かけてどうするの。
ほんと手がかかるね、あんた』
(言葉はいつも通りだけど、ちょっとだけ心配してくれたのかな?)
「はい。すみません。
でも…ありがとうございます」
そう言うと、ふにゃっと笑いかける。
(!!)
『な、なに急に。
お礼言われるような事してないから』
そう言うと、家康はさっさと先に少し歩き出してしまう。
「あ、待って下さい!」
慌てておやつの巾着をとウリを抱きながら立ち上がると、
ずっと座っていた愛は立ちくらみに、バランスを崩す。
「あ…」
ガシッ
よろけた身体を、駆け寄った家康に素早く受け止められ、
そして盛大にため息をつかれる。
『両手塞がってる時くらい、もっと気をつけたらどうなの』
「す、すみません…重ね重ね…」
『帰り道で怪我されたら、また俺がめんどくさいから、
秀吉さんとこまで送ってく』
「え…でも、そんな迷惑かけられないです…」
『目離しても迷惑かけられるなら、同じ。
あと、鬱陶しいから敬語やめて』
一連の流れで言われた言葉に目を丸くする愛。
「へ?」
『なにその間抜けな声は。だから、俺だけ敬語で話されると、
なんかイライラするからやめてって言ってるの』
(秀吉さんにも政宗さんにも使ってないのに…)
『あと…さん付けもいらないから』
「そんな、急に言われましても…」
『そ。じゃあ、秀吉さんとこ着くまでに慣れて。
ほら、さっさと行くよ』
「はい…」
小さく返事をする愛をジロッと睨む。
「う、うん。ありがとう。いえ…やす…」
『できるじゃん』
ぎこちない会話をしながら、秀吉の御殿まで歩く二人と一匹だった。