第11章 忍びの庭 前編(佐助)
陽も傾き出した頃、佐助は幸村と会う約束があると
野原を去って行った。
残された愛は、器用に小さな小さな花冠を作りながら、
久しぶりに逢えた佐助と話した事を思い返す。
「佐助くん…もう簡単に逢いには来れないんだろうな…」
どうして城の警備が強化されているのか、天井裏の様子が変わったのか、
愛には計り知れない事だらけだった。
「でも…自分から誰かに聞くのは相当怪しまれるよね…
気になるけど…」
あくまでも、友人として逢いに来てくれてはいるが、
それは二人の中でのこと。
織田軍からしてみれば、佐助の行動は敵情視察でしかないだろう。
『万が一、俺と繋がってると公にバレれば、
君の居場所も危うくなる。絶対に自分で動かないで』
帰り際、佐助に念を押された。
(その通りだよ…ここでスパイ疑惑とか、
一番めんどくさいことになるよね。
漸く秀吉さんも疑い晴らしてくれたんだから…)
愛の膝でスヤスヤと寝ているウリに、
出来上がったばかりの花冠をそっと乗せる。
「いいな、ウリは。悩みなんてあるの?
あ、三成くんが名前覚えてくれない事とかかな?」
独り言を言いながら、クスクス笑っていると、
急に後ろから声がする。
『あんたこそ、一番悩みなさそうだけど?』
驚いて勢いよく振り返れば、
そこには不機嫌そうな家康の姿があった。
「い、家康さん…!どうしたんですか?いたた…」
あまりの事に驚いて、急に振り返ったので、
首を少し捻ってしまったようだった。
『はぁ…なにやってんの…。
ほんと、鈍臭いねあんた。
ほら、そにまま動かないで』
そう言うと、家康は愛の横にしゃがみ込み、そっと首に手を当てる。
ビクっ
(か、顔近っ!)
急に、接近した家康の顔にびっくりするが、
動くと怒られそうなので、ドキドキしながらも目線だけ精一杯逸らす。
『目、泳ぎすぎでしょ…何考えてんの』
呟くような、吐き捨てるような声に、
どうしていいかわからなくなっていると、
『ほら、このままゆっくり顔前に向けて』
と、首の一点をグッと指で押さえたまま
もう片方の手で頭ごと前に向かされる。
「あ…痛くない…ありがとう…ございます」
お礼を言いながら、家康の顔を見れば、
夕陽のせいなのか、薄っすらと目元が赤く見えた。