第11章 忍びの庭 前編(佐助)
「どうして…でも、もし私の部屋に来ているってバレてたら、
何か言われると思うんだけどな…なんでだろう」
愛は首を傾げながら、日頃のみんなの姿を思い浮かべるが、
差し当たって変わった事が見当たらなかった。
『愛さん…もしかしたら石田三成にバレてるんじゃないかと思うんだ』
「え?三成くんに?!
さっきも暫く一緒にいたけど、何にも言ってなかったよ?」
『俺が行ってない間、三成が部屋に来た事ある?』
そう言えば…
「一度だけ来たかな。
あれは…寝巻着が綻んでしまったから直して欲しいって…
うん。三日前に来たよ。それ以外は来てない」
その言葉に、佐助は考えるように目線を落とす。
『三日前の夜、俺も行った。
どこか抜け道が無いかと探しに、安土城に忍び込んだ』
「入れたの?」
『あぁ。なぜか、その時は前のように警備が敷かれていなかった。
だけど、やっぱり君の部屋までは辿り着けなかったんだ』
なにか、嫌な予感がゾワリと背筋を通り過ぎた気がして、
愛は一人身震いをした。
「ねぇ、佐助君…あんまり危ない事しないで?
もし罠だったりしたら…」
気遣わしげな目で佐助を見る愛の肩に、
そっと優しく手を置く。
『大丈夫だ。そんなミスはしないよ。
でも、暫くはこっちも慎重に行かないとだな。
君を守れなくなったら意味がない』
肩に乗せた手をそっと愛の頬へ移そうとしたその時、
〈キーっ〉
突然、ウリが佐助の腕に飛びつき鋭く引っ掻いた。
『あっ』
「ウリっ」
一瞬の出来事だったが、佐助の服やウリの爪で少し破れていた。
「大丈夫?!佐助君」
慌てたように愛が声を出す。
「ウリ、ダメじゃない!」
怒られたウリは、そっぽを向くように紐のギリギリまで離れて行く。
『大丈夫。少し引っかかっただけだ。
皮膚までは到達していないから。気にしないで。
それにしても…』
佐助は、離れたところでおやつを食べているウリを見ながら、
『君は織田軍の全てに守られているようだね』
と、少し驚いたような声で言った。