第11章 忍びの庭 前編(佐助)
城下の外れにある野原まで来た愛は、
紐をつけたままウリをそっと降ろす。
「ウリ、気持ちいいね!今がちょうどいい季節だね」
話しかけられたウリは、まるで言葉がわかるかのように、
〈キキっ〉と声を出す。
「おやつ食べる?」
秀吉に渡された巾着を開けると、小さな赤い実が入っていた。
ウリに渡すと、小さな両手で大切そうに抱え、カリカリと食べ始める。
「美味しいの?良かったね」
ウリが夢中になって食べているのを、微笑ましく見ながら
愛も秀吉に貰った飴を一つ口に入れる。
「あまい〜。美味しいなこの飴!」
のんびりとした昼下がりを満喫していると、
ふいに後ろから声をかけられた。
『愛さん!』
驚いて振り返ると、そこには毎晩待ち焦がれていた佐助の姿があった。
「え?佐助くん?!どうして?」
『やっと会えた…。本当によかった。変わりはない?』
佐助は愛に近づくと、両手を取り
「う、うん。私は大丈夫。佐助君心配してたんだよ!
やっと会えたって、どう言うこと?」
その質問に佐助は少しだけ顔を曇らせる。
「何か…あったの?」
『越後での話はもう耳に入ってる?』
「うん。領地内で武田の旧家臣が上杉に刃向かったって…」
『そう。それが、漸くケリがついたのが十日前くらい。
ちょっと手こずって怪我人を相当出してしまったんだ』
それを聞くと、愛は心配そうに佐助を覗き込み、
「怪我…佐助くんは大丈夫?」
愛の労わるような声に、佐助は顔をほころばせ、
『俺は大丈夫。謙信様もみんなも』
愛はホッとして力を緩める。
『それで、落ち着いた後すぐに安土に戻って君に会いに来たんだけど…』
何かを言い淀む佐助に不安を感じる。
「どうしたの?」
愛が優しい声で続きを促す。
『安土城の警備が強化されていて、全然城に入れなかった』
「え?そんな話、軍議でも出てなかったし、いつもと何か変わったことでも…」
『それで昨日、漸く中には入れたんだけど、いざ君の部屋に向かおうとしたら、
いつも使っていたルートが全て塞がれていたんだ』
「まさか…」
『あぁ。多分、俺が忍び込んでいた事が、織田軍にバレてる』