第1章 ワームホールはすぐ側に(家康)
自分の御殿に連れて帰りたかったが、
秀吉がそれを許さなかった。
佐助とは一先ず別れ、そのまま城の愛の部屋まで運ぶ。
ずぶ濡れで帰ってきた家康たちを見て、光秀は一瞬驚いた顔をしたが、
『やはり飽きぬな…』と、呟くと、
『大丈夫なのだろう?』と秀吉に訊く。
秀吉は家康を見やり、それを見た家康が、代わりに
「えぇ…」
とだけ漏らした。
女中に預けろという秀吉の助言を断り、
「診察がてらなんで…」と、
家康は意識の戻らない愛の着替えをさせる。
(だから御殿のほうが良かったんだ…)
そう思いながらも、湯で温めた手拭いで丁寧に身体を拭きながら、
新しい寝着を着せ終え、
(冷えてるな…)
褥に寝かせた身体をギュッと抱き締めた。
冷えた愛の身体に、自分の体温を移すように。
『終わったか?』
外で待っていた秀吉が声をかける。
「えぇ。」
その返事を聞いて襖を開けた秀吉は焦りだす。
『お、おい!何やってんだ、お前!』
目の前で愛の褥に並んで抱きついている家康がいる。
「何って、見ればわかるでしょ…。温めてます。」
何を焦ってるの?と言わんばかりの目で秀吉に返す。
「だから、俺の御殿が良いって言ったじゃないですか…」
居心地悪そうな目で秀吉に文句を言う。
(いつも通りに戻ったか…まぁ大目に見てやろう)
いつも通りの口調に戻った家康を、すこしホッとして見ている。
愛が戻る前の、野原で見た家康はまるで生気がなく、
このまま消えてしまうのではないかと思わせた。
次に愛を抱えてきた家康も、どこか儚く見えて
言い知れぬ恐怖が少なからず感じられた。
だが、今目の前にいる家康は、いつも通りの家康だ。
『で、大丈夫…なんだよな?』
「俺もこんな経験ないですけど、多分雷鳴とで気を失ってるんだと思います」
『そうか。。で、、』
「なんです?」
『お前はいつまでそうしてるんだ…』
少し顔を赤らめて秀吉が訊けば
「目覚めるまで。」
当たり前のように家康は応えるのだった。