第11章 忍びの庭 前編(佐助)
書庫を出てから、愛は再び秀吉の部屋を訪れた。
「失礼します。」
秀吉が顔を上げると、ウリを肩に乗せて愛が入ってくる。
『愛か。三成どうだった?』
その質問に、本の雪崩にもがいていた姿を思い出し、
クスクスっと笑いだす。
『どうかしたか?』
「うふふ…三成くんね…ふふっ…。
沢山の本に押しつぶされそうになってた!あははは」
堪えきれずに声を出して笑う愛に、秀吉は驚く。
『どう言うことだ?大丈夫だったのか?』
「大丈夫じゃなかったら、こんなに笑えないよ…ふふっ」
愛は書庫での出来事を秀吉に全て話した。
『全くあいつは…。手間をかけたな。あとできつく言っておかないと…』
秀吉の顔が険しくなる。
愛は、眉尻を下げながら
「あんまり怒らないであげてね、私も結構言っちゃったから…」
『わかった。ありがとな。お前はこれからどうするんだ?』
「お天気いいから、ウリとお散歩してこようかなって」
『おう。あんまり遠くまで行くなよ?
ちゃんと夕餉前には帰ってこい。
お前、羽織気ないと夕刻は寒くなるぞ…』
「もう、大丈夫だよ!
夕刻なんて、そんなに歩き回らないから。
野原で遊んで、帰ってくるね」
『知らない人について行くなよ?
あ、そうだこれ持って行け。ウリのおやつだ』
秀吉は薄い布で出来た巾着を渡す。
『それから、こっちは、お前のおやつだ。甘味の礼に持ってけ』
小さな紙包みを開ければ、そこには色とりどりの飴が入っていた。
それを見た愛の顔は、パァッとキラキラ輝く。
「わぁ!とっても綺麗!
こんなの城下でも見たことないよ。
高級な品なんじゃないの?いいの?」
『あぁ。それは昔から懇意にしている腕のいい飴職人がくれたものだ。
俺はあまり食べないから、お前にあげるよ』
そう言うと、愛の頭を撫でる。
「ありがとう、秀吉さん!それじゃ、行ってくるね」
ニッコリ笑って愛が出て行く。
『さっきの元気なさそうなのは、気のせいだったのか?それとも…やっぱり三成が…』
何とも言えないモヤモヤしたものを感じながら、
秀吉は再び目の前の仕事に明け暮れていった。