第11章 忍びの庭 前編(佐助)
『悪いな…色々気を使わせて。茶でも淹れるか』
「いいって、秀吉さん。私が用意するから、手が空いた時に食べて?
忙しい秀吉さんにやらせちゃったら意味ないでしょ?ほらほら、仕事に戻ってね」
愛は秀吉の背中を押しながら文机に促すと、ウリを肩に乗せたまま、
小さなお盆二つに、それぞれお茶と甘味を用意する。
「はい、これ秀吉さんの分ね。
餡子は頭を冴えさせるから、きっとお仕事捗るよ!」
『ん。ありがとな。ウリ、本当に愛に懐いてるな。
三成だと大暴れなのに…じゃあ悪いけど、三成も頼むよ』
申し訳なさそうに秀吉が言うので、愛は
「はい。ウリと三成くん、お二人のお世話仰せつかりました」
と、少し戯けてみせた。
ウリを肩に乗せた愛が、包みを腕に下げお盆を持つ。
『大丈夫か?ウリが暴れたら零すぞ?』
と、心配そうに秀吉が言うと、
〈そんなことしないよ!〉
と、ばかりにウリが〈キキっ!〉と声をあげた。
「ウリお利口さんだもんね。今日は一緒に遊ぼうね」
と、声をかけると、ウリは答えるように愛の首元に立ち、
頭をしっかり抱きしめるようにしがみついた。
「じゃあ秀吉さん、頑張ってね」
と、愛が部屋を出て行く。
秀吉は、
『なんか…あいつズルいな…』
と、雌のウリに呟いた。
『なーんかやっぱり笑顔に元気が無かったな。
よし、必ず夕餉までにキリをつけるぞ』
愛の少し曇りにある笑顔を思い出しながら、
饅頭を一口かじると、目の前の仕事に立ち向かっていく。
愛が書庫の前に着くと、既に扉が開いていた。
「三成くん、いるー?」
少し大きめな声を出すが、返事はなかった。
耳を澄ますと、かすかにガサッガサッと音がする。
「三成くん、入るよー!」
声をかけて、書庫に中を進む。
すると、部屋の突き当たりにある机は本が雪崩をおこしていて、
机の向こう側で崩れた本が蠢いていた。
「え?」
「みつ…なりくん?」
愛が恐る恐る近づいて声をかけると、
『ぐっ…』
と、うめき声がする。
慌てて持っていたお盆と荷物を置くと、
蠢いている本を退けていく。
「三成くん!何してるの?!」
退けていった本の先には、嘘のように三成が埋もれていた。