第11章 忍びの庭 前編(佐助)
(…っ!愛…)
抱きつかれると思ってなかった佐助は、
赤くなっていそうな顔を見られないようにそっと顔を背けた。
愛が離れると、動揺した事を悟られないように話題を変える。
『どう?武将の皆さんとは仲良くなって来た?』
愛は、佐助のためにお茶を淹れながら答える。
「うーん…。三成くんとは、気兼ねせずになんでも話せるのかなって。
秀吉さんは気にかけてくれるけど、まだきっと私の事疑ってるのには変わりないと思う」
そう言いながら、お茶を差し出す。
『ありがとう。家康さんは?』
「え?」
一瞬にして、あの不機嫌そうな顔を思い出す。
〈弱そうな女〉
そう言われた時の冷たい目を思い出して身震いする。
「い、家康さんとは…一生仲良くなれないんじゃないかな?
なんか意味もなく絶対嫌われてるし…」
『そうか…残念だな』
「残念?」
キョトンと首をかしげる愛。
『いや、君が仲良くなってくれたら、サイン貰えるかと思ったんだが…』
「えーーー?サイン?!」
(そうだ、佐助は昔から武将ヲタクだった…)
それを思いだし、愛はコロコロ笑う。
「佐助君らしいなぁ。家康さんのサイン貰えるまで仲良くなるの難しそうだけど…
一応努力はしてみるよ。あ、三成くんに頼んだりしたらどうだろ?」
まだ家康と三成の関係を知らない愛は、のほほんと言うのだった。
夕餉を食べる間、佐助と楽しく話をした。
忍者になるまでの話や、今の上司が直ぐに斬りかかってこようとする人物だとか、
年が同じくらいの友達がいること。
『それって、もしかしてイノシシ女て呼んだあの人?』
愛は、崖に落ちそうになったのを助けてくれた男を思い出す。
助けてくれたのに文句は言いたくないが、無神経すぎると思った記憶がある。
『あぁ、そうだ。もう会ったことあったね。幸って言うんだ。
口は悪いが、真っ直ぐでいい奴だよ。今度改めて紹介する。
安土城下で、流しの行商してるから』
「ちょー無神経だったよ、あの人。
イノシシなんて、普通言う??」
ちょっと頬を膨らませてみる。
「でも、佐助君が友達なんだから、いい人なんだろうね。
次はちゃんと話してみるよ!」
『うん。そうしてあげて。
幸は、女の子に慣れてないだけだから』