第11章 忍びの庭 前編(佐助)
「秀吉さんが?」
自分の事を散々疑っている秀吉が、それでも気にかけてくれている事に、
驚くと共に、嬉しくもあった。
三成は、台所番に作らせたおにぎりを愛に渡す。
『宜しければ、召し上がってくださいね』
そう言うと、ニッコリと笑う。
「ありがとう…。三成くんも…忙しいのにごめんね。
わざわざ来てくれて、ちょっとびっくりしたけど嬉しい」
そう言うと、笑顔を返す。
『良かったです。ここでは、愛様にとって辛い事が多いかもしれませんが、
いつでも力になりますから、私を頼って下さいね?約束、ですよ?』
三成の言葉に、固まった心がほぐれるような気がした。
「うん。宜しくお願いします。
三成くんは、もうご飯食べたの?」
『え?あぁ…そう言えば、先ほど秀吉様に声をかけられるまでずっと本を読んでいたので…
今日はまだ何も食べていないかもしれません』
サラッと言う三成に、
「え?今日は…ってもう夜だよ?!」
と、眼を丸くする。
『えぇ。私は、よく寝るのと食べるのを忘れているようでして、
秀吉様にしょっちゅう怒られてしまいます』
少し照れくさそうに三成が言う。
「それは…秀吉さんじゃなくても心配だよ。
よかったら、これ一緒に食べない?私、全部食べきれないから…」
『宜しいのですか?』
「うん。一人で食べるより、一緒に食べた方が美味しいと思うし。
あ、でも三成くんまだお仕事あるよね。迷惑…かな?」
誘ってしまったものの、遊びに来たわけではない事を思い出し、
申し訳なさそうな声になる愛。
『いいえ。今日はもう書庫に戻る事を禁じられております。
愛様が宜しいのでしたら、是非、ご一緒させていただきます。
しかし…同じ握り飯が、そんな突然味が変わるのですか?』
至って真剣な目で三成が訊く。
「え、やぁ、あの…ものの例えっていうか…
一人で黙々と食べるより、誰かと笑顔で食べる方が良いかなって」
(三成くん、真面目だなぁ…かわいい)
『そうですね、あまり考えたことはありませんでしたが、
愛様とご一緒でしたら、光秀様の作ったものでも
美味しく頂けそうです!』
「え?光秀さん?」
愛には意味がわからなかったが、三成が嬉しそうな顔をするので、
あまり深くは聞かないでおこうと思った。