第10章 たんぽぽ(政宗)
愛が湯浴みを終えて部屋に戻ると、
縁側で、先に湯殿から戻った政宗は照月の頭を撫でていた。
照月を挟んで愛も座ると、背中を撫でる。
『なんでそっちに座るんだよ?』
少し不服そうに政宗が言う。
「え?深い意味はなかったよ?
私も照月触りたいなーって…」
政宗の思いがけない反応に戸惑う愛。
政宗は、照月を抱え上げると、そのまま縁側に仰向けに寝転がり
愛の膝に頭を乗せた。
『これでどっちも触れるだろ?』
愛を見上げながら微笑む。
「もぉ…しょうがないなぁ。政宗にはいつだって敵わないよ」
眉を下げ、観念したように言いながら、
膝に乗せられた政宗の頭を、優しく撫でる。
政宗に撫でられてる照月も、愛に撫でられてる政宗も、
同じように目を細めて、気持ちよさそうにしていた。
「ねぇ?政宗」
『ん?なんだ?』
「左ノ吉さん、嬉しそうだったね」
『そりゃお前があんな立派な晴れ着を作ったんだ、当たり前…』
政宗の言葉は途中で遮られる。
額にかかる髪をかき上げると、愛が政宗の額に口付けを落とした。
「私、政宗のこと、大好きだよ。今までも、これからもずっと。
私だけじゃない。家臣の皆さんの幸せも願ってる政宗のことが」
そう言う愛を見上げれば、後ろの夜空には大きな満月が見えた。
月の灯りに照らされた愛の姿は、幻想的で艶めかしく、そしてどこか儚く見える。
『お前…。ずっと俺の側にいろよ…』
力無い笑顔で頷く愛に、なぜか落ちつかない。
政宗は、照月をそっと下ろすと、
起き上がり愛と向かい合うように座り直した。
『早くお前を青葉城に連れて帰りたい。
そうしたら、祝言を挙げるからな』
「ありがとう。政宗。楽しみにしてる!」
さっきの幻想的な表情とは打って変わり、
いつものように、照れながらふにゃっと笑う愛に漸く安心する。
『あいつらなんかよりも、よっぽど幸せにしてやるからな』
「政宗も…」
『ん?』
「政宗も、私が幸せにしてあげられるように頑張るから!」
必死な顔で見上げる愛の頭を、
笑いながらクシャクシャ撫でる。