第10章 たんぽぽ(政宗)
三人の宴は、終始和やかに進む。
「愛、そろそろ本題に入れよ」
政宗が笑顔で促す。
言われた愛は、丁寧に包まれた風呂敷を持ち出す。
「左ノ吉さん、改めておめでとうございます。
気に入ってもらえるか…。どうぞ、私からの気持ちです」
本題と言われて、まさか自分と思わなかった左ノ吉は驚きを隠せない。
『私に…ですか?』
「お前の子にだよ。なぁ愛。
今日だけだからな?愛の愛情を他にやるのを許すのは」
政宗は、冗談とも言い切れない顔で言う。
左ノ吉は、未だ驚いた表情のまま、包みを受け取ると丁寧に広げる。
そこからは、可愛らしい桃色の袋が現れ、我が子の名前が刺繍されていた。
『愛様…』
呆然と愛の顔を見ると、
「袋はおまけです。中身が贈り物ですよ」
と、愛微笑む。
ゆっくりと中身を取り出すと、
そこには、薄い黄色に菜の花の刺繍が施された晴れ着が顔を出す。
「春菜ちゃんの晴れ着です。少し大きめに仕立ててあります。
大きくなったら、お持ちください。返しを出して伸ばしますから」
『愛様…政宗様…』
左ノ吉は、目元を潤ませながら頭を下げる。
その顔を見られないようにか、中々顔を上げない。
『有難き幸せ…』
政宗が、肩をポンポンと叩く。
「顔をあげろ。俺からお前に命を出す」
その言葉に、ハッと機敏に背を正す。
「青葉城に、文を届けてくれないか?
新しく治める事になった国の兵糧についての大切な文だ。
お前に頼みたい」
『えっ?見張り小屋は…』
「お前が戻るまで、家康の家臣達が皐月に入るまで
数人代わってくれる事になった」
『皐月…でございますか?』
「それまでには、悪いが戻ってくれるか?」
そう話す政宗の優しい顔を、愛は幸せな気持ちで見守る。
(政宗…家族に会わせてあげるんだね…。
左ノ吉さん、嬉しそう。よかった)
『政宗様…ありがとうございます。
その大切な文、この左ノ吉、しかと届けて参ります!』
そう言うと、再び畳にひれ伏す。
政宗と愛は、その様子に顔を見合わせて微笑み合うのだった。