第10章 たんぽぽ(政宗)
礼を言われ、驚いて顔を上げれば、
そこには穏やかな笑顔の愛が間近に見える。
『なぜ…礼を…』
「ありがとうございます。
左ノ吉さんのおかげで、政宗に早く逢えました。
怪我したのは、政宗が気をつけなかったからですよ?
急がば回れ、なんですから!
でも、毎日手当してあげられる時間も増えましたけどね」
『愛様…。
今日は、愛様が私をお呼びという事で、絶対に咎を受けるのだと…』
その言葉に、愛も驚いたが、政宗も驚く。
「おい、愛がお前に咎を?
俺にさえ、心配こそしてくれたが、小言の一つも言っていない」
『え?では、なぜ今日は…』
狼狽えている左ノ吉の背中を優しく撫でながら、
愛は笑顔で話しかける。
「今日は、春菜ちゃんのための、ささやかなお祝いの会ですよ?」
『えっ!』
「おぅ。そうだぞ。もう女中たちが俺の料理を運び終わった頃だろう。
さぁ、いくぞ。お前、いつまで愛に触られてる気だ?
早く立たないと、そっちは咎めるぞ」
その言葉に左ノ吉は、潤んだ目をゴシゴシと乱暴に拭うと、
身体をしっかりと起こし背筋を伸ばした。
『はっ。申し訳ございません。
愛様、大変お見苦しいところをお見せ致しました』
その顔は、晴れやかに明るく、
愛も政宗も、ホッと息をつく。
政宗が愛の手を取り、立ち上がらせれば、
その後ろを左ノ吉が続く。
宴の部屋に場所を移せば、ささやかとは言い難い、
豪華な食事が用意されている。
「わぁっ!いつの間にこんなに作ったの?!
綺麗だねー!左ノ吉さんのおかげで、政宗の美味しいご飯が沢山食べられます!」
はしゃぐ愛を見て、政宗は満足そうに目を細める。
『政宗様は、本当に良い方を見つけられましたね。
家臣の私達も鼻が高いというものです!』
愛と政宗の優しさと純粋さに触れ、
心の底からの気持ちを伝えた。
「それは、褒めすぎですよ?
政宗は、私にはもったいないくらいですから…」
照れながら言う愛の頭を政宗はクシャクシャと撫でながら
「いいや、こんないい女、二人といないからな。
愛は俺の一番の自慢だ。さあ、はじめるぞ」
左ノ吉は二人のやり取りを微笑ましく見ていた。