第10章 たんぽぽ(政宗)
「失礼します」
襖がシャッと開いて、愛が顔を出す。
『愛樣!』
家臣は驚き頭を下げる。
「おお、愛。お前の準備は終わったか?」
政宗が笑顔で呼びかける。
「はい!終わりましたよ。
ところで…左ノ吉さんは、なんでずっと頭を下げているのです?」
愛はキョトンとした顔で話しかける。
『いえ…その…。政宗様の此度の怪我は、
わたくしが余計なことを話したばかりに…』
「へぇ〜!どんな話なんですか?」
政宗をチラッと見ながら、楽しそうに訊く。
「おい…愛…」
政宗は、愛がわざと聞き出そうとしている事に気付き、
ほんのりと顔を赧く染める。
『はっ。あの…』
子の話は愛に余りするなと言われたことを思い出し、
左ノ吉は口ごもりながら、愛を見る。
「二人で、私には内緒の話、してたんですか?」
愛はわざと悲しそうな顔をしてみせる。
『愛様っ!いえ、そうのような事は…。ただ…』
「ただ?」
意を決したように顔を上げると、愛に身体ごと向き直る。
「お、おい、お前…」
政宗は少し慌てるが、
『わたくし共の夫婦は、祝言からすぐに子が出来たため、
二人の時間を大切に出来ずに過ごしてしまいました。
妻は子ができると、娘にかかりきりで、私も今は近くに居られない故…
愛様との二人だけの時間は大切にと…』
「はぁ、、、」
左ノ吉の言葉を聞き、政宗は赤くなってるであろう顔を隠すように、
右手を顔に当てうつむき、盛大にため息をついた。
愛はと言えば、正直、自分の顔を見るために急いだと言うのは、
いつもの政宗の冗談で、本当は仕事があったのだろうと思って居た。
まさか、本当に自分に逢いたくて、急いで怪我をしたなんて…
政宗を見やれば、顔に当てている手は袖が落ち、
先ほど巻き直した包帯が見えている。
今朝、子供への愛情の話をした時に、あんなにムキになっていのは、
きっと左ノ吉との話があったからだ。
全ての事が、一つに繋がった愛は、
未だ頭を下げている政宗の大切な家臣の肩に手を置く。
「頭、上げて下さい?左ノ吉さん、ありがとうございました」