第1章 ワームホールはすぐ側に(家康)
「家康…」
愛しい人の名前をポツリと呟き、
ポタポタと涙が落ちる。
早く帰らなければ…
そう思う反面、
このまま居なくなった方がいいのかも…
その気持ちも拭い切れないでいた。
何で、自分は忘れていたんだろう、
今日、外に出てはいけないと言われていた事を。
昨日色々とありすぎて?
それだけでは無いような気がした。
心をえぐった言葉たちが、次々に溢れてくる。
今まで何を言われても、こんなに苦しい事はなかった。
天邪鬼な家康を、全部好きだったから。
でも昨日は違った。
頭でわかっているのに、愛の奥底に閉じ込めていた
辛い出来事が一緒に蘇ってきたから…
「私、この時代に逃げてただけなのかな…」
言葉にしてしまうと、自分の弱さを再認識させられた。
お兄ちゃんのような、秀吉とに毎日世話を焼かれ、
大好きな家康にいつも想われ、
あの頃と変わらぬ佐助が、そっと見守ってくれている。
そんな「今」に甘えているだけなのではないか…
そう思うと、早く此処を動かなくてはいけないのに、
身体が思うように動かなかった。
「ーーーー!!」
近づく雷鳴に縮こまっていると、突然誰かが呼んだ気がした。
そんなわけないか。
でも、本当にもう危ないかもしれない。
早く此処を動かなければ。
雨の当たらない、あの暖かい安土城へ戻らなければ…
「愛ー!!」
今度はハッキリと聞こえた。
立ち上がって振り返る。
なぜか、景色が歪んで見えるけど、
この声は紛れもなく、家康だ。
息を切らしながら、駆けてくる。
でもなぜ?
全然自分との距離が縮まらないような気がする。
すると、突然大きな雷鳴とともに、
目の前が真っ白になり、フワリと身体が浮いた。
恐怖で固く瞑っていた眼を開けると、
そこは暗く何もない空間。
…あ、やっちゃった…
きっとこれは、未来に戻される途中だ…
そんな気がした。