第10章 たんぽぽ(政宗)
政宗が見張り小屋に着くと、家臣の左ノ吉が素早く見つけ寄ってくる。
『政宗様、今日も来てくださったんですね。ありがとうぎざいます』
笑顔で感謝を述べる左ノ吉に、
「毎日ありがとうな。お前たちがしっかり仕事をしてくれるおかげで、
俺も信長様には鼻が高いんだ。礼を言うのは俺の方だな」
そう言うと、差し入れにと作って来た団子を渡す。
「休憩もしっかり取れよ。休む事も仕事のうちだ」
笑顔に政宗につられて、左ノ吉も顔を綻ばす。
『伊達家に仕えて、政宗様のお役に立てて…
私たちは本当に幸せ者です!なぁみんな』
そう言いながら仲間を振り返れば、みな同じように生き生きとした顔をしていた。
「幸せと言えば、お前、子供が産まれたんだよな?
名はなんと言うんだ?」
最近女の子を授かったばかりの左ノ吉は、嬉しそうに
『覚えて下さっていたのですね!
名は春の菜と書いて、はるなと申します。
妻が菜の花が大好きなのと、春に生まれましたので』
と、少し照れながら話す。
「春菜か。いい名前だ。お前に似ないといいな」
と、冗談を話す政宗に、
『大丈夫ですよ。今の所は妻に似て大層なべっぴんです!』
と、最大に笑顔を見せる。
「産まれたばかりなのに、ずっと側にいさせてやれなくてすまないな。
青葉城に戻れるまで、もう少しだけ辛抱してやってくれ」
申し訳なさそうに政宗が言う。
『そんな!私がしっかり働くことが、妻にも娘のためにもなるんです。
青葉城には、もちろん愛様も一緒に行かれるんですよね?』
「当たり前だ。その話は既に信長様にも話は通してある。
愛にはまだ言っていないから、内緒にしておけよ?」
家臣はパァッと顔を煌めかせ、
『青葉城に戻るのが本当に楽しみですね!
政宗様にもお子ができるのも待ち遠しい限りです』
と、嬉しそうに言う。
「それこそ、愛に似た姫でも産まれたら大変だな。
まぁそれは天からの授かりものだ。あいつにそんな事言うなよ?
すぐ気にするから」
『政宗様は本当に愛様がお好きなのですね。
子供ができれば、母親は子につきっきりになりますから、
今のうちに愛様に沢山甘えておくんですよ。
私たちは、子供ができるまでにあまり二人の時間が作れなかったので、
もう少しあいつを甘やかせば良かったと思いますから』