第10章 たんぽぽ(政宗)
「ううん。見てないと、明日からやってあげられないから…」
『政宗さん、毎日俺に来させるつもりですか?』
家康も不機嫌そうに言う。
「自分でできる。このくらい」
『利き手ですよ?大人しく愛にやってもらって下さい。
ちゃんと教えておくんで』
「そうだよ。ちゃんと出来るようにしておくから」
政宗の腕を綺麗に洗い上げ、家康は傷口をよく見る。
『良かった。傷口作った植物に毒は無いと思います。
全く…森を突っ切るのに早駆けって、どうかしてますよ…。
あの森には、毒のある荊も生息してるし、
もっと太い枯れ木だったら深くザックリ行ってるとこですよ。
なんでまた、今日に限ってそんな急いで帰ってきたんです?』
いつも通り家臣の様子を見に行った帰り、
森の中を突っ切れば近道と、馬を早駆けしていたところで
疾走する馬に驚いた鳥の群れが一斉に飛び立った。
その声に馬が驚き暴れた先にあった鋭利な
枯れ枝にひっかけて腕を切ったのだった。
刀傷に比べれば…そう思っていたが、
出血が案外多く、
城に着いてたまたま通りかかった家康に見つかり、今に至る。
家康は、愛に薬の塗り方と包帯に巻き方を丁寧に指示しながら
丁寧に政宗の手当てをしていく。
『これ、万が一傷で熱が出た時に飲ませて。
大丈夫だとは思うけど、念のため』
そう言うと、薬草を煎じた薬を愛に渡す。
「悪かったな家康。治ったら飛切り辛いもん作ってやるからな」
『そりゃどうも。
じゃ、俺は戻りますから、何かあったらいつでも呼んで下さい』
「 家康、ありがとう。家康がいてくれて良かった」
さっきよりは表情を和らげた愛が礼を言う。
『さっきも言ったけど、三日は右腕動かさないで下さい。
ちゃんと守ったら、傷口の治りも早くなりますから』
家康は念を押して部屋を出ていく。
「もう…本当にあんまり無茶しないでよ…。
近道してこんな怪我してたら、身体もたないよ?」
「悪かった。お前にそんな顔ばっかりさせたくないしな。
早く顔見たくて近道したのに、その顔じゃ腑に落ちねぇしな」
そう言いながら、泣きそうな愛の頭をクシャクシャっと撫でる。
「全く、どっちが怪我したかわかんねぇな、これじゃ」
と、楽しそうに笑う政宗に、愛は深いため息をついた。