第10章 たんぽぽ(政宗)
「おかえりなさい」
「ただいま。いい子にしてたか?」
「政宗…血?!どうしたの?!家康に…」
「さっき頼んできた。もうじき来るだろ。
お前がそんな顔するな。大丈夫だから」
愛は、苦しそうな顔で
両手を膝の上でギュッと握る。
爪が食い込むほどに。
『入りますよ…』
シャっと襖が開き、家康が入ってくる。
「おお、家康。わざわざ悪かったな」
『いいえ。仕事ですから…って、一体どっちが怪我してるんですか?』
家康は政宗と愛の顔を交互に見る。
「え?政宗だよ!何言って…」
慌てて愛が言う。
『あんたの方が辛そうな顔してるから』
家康は向かい合っている政宗と愛の間に腰を下ろすと
ギュッと握られた愛の両手に触れ
『爪…食い込んでる。あんたまで怪我しないで』
と優しく開かせる。
「え…」
愛は言われて初めて自分の身体が
カチコチに力が入っていることに気づく。
「おい、お前なにどさくさに紛れて愛に触れてるんだ」
政宗が左手で家康の頭をペシっと叩く。
『いてっ…。ちょっと、怪我人は大人しくしてもらえます?
はい、早く腕見せて下さい』
家康は政宗の右腕を引くと、袖を捲り上げる。
そこには、生々しい傷が見える。
『ザックリいきましたねぇ…三日くらいは腕動かさない方がいいですよ。
一回綺麗にしますから、しみるけど我慢して下さい』
そう言うと、女中に水の張った桶を用意させ、
家康は手際よく政宗の腕についた汚れを拭いていく。
「ぐっ…。お前…もっと優しくやれよ…」
政宗は少しだけ顔をしかめ、家康に文句を言いながら顔を上げる。
家康の肩越しに愛の顔を見れば、
苦しそうな顔をして、治療をじっと見ている。
『全く…どんな道を走ったら、こんな怪我するんです?
馬は無事だったですか?』
家康は多少呆れた声で訊きながら政宗の顔を見ると、
そこには自分の後ろに目線をやっているのが見え、釣られて振り返る。
『はぁ…。もう愛もそんな顔してないで…』
ため息交じりで言うと、愛はハッとする。
「ご、ごめん…。無意識で…」
「お前、そんな辛そうな顔するならあっちで待ってていいんだぞ」
政宗が声をかける。