第10章 たんぽぽ(政宗)
「政宗、夕餉の支度出来たよ」
その日の夕刻、夕餉の支度が終わって愛が部屋に膳を運んで来る。
文机に向かって、書簡に目を通していた政宗は顔を上げる。
『おお、ありがとな。どれ、運ぶの手伝うぞ』
そう言って立ち上がろうとする政宗に、
「だめだよ!三日は右腕使っちゃダメって言われたでしょ」
少し厳しめの愛の声がする。
『おいおい…大丈夫だって言ってるじゃねぇか。
お前の手伝いくらい…』
「だーめ。政宗はそこに座ってて?」
そう言うと、手際よく二人分の食事を用意する。
『ん?今日は隣同士なのか?』
いつもは向かい合って食べている食事の用意を
今日は隣合うように並べられている。
「うん。だって、政宗右手使えないでしょ?」
『ん?』
そう言うと箸を持ち、政宗の膳から煮物を取ると
「はい、どうぞ」
と、口元へ運ぶ。
『お、おい…』
急な愛の行動にびっくりした政宗は、
目を丸くして愛を見る。
「 どうしたの?はい」
キョトンと首を傾げながら、煮物を差し出す。
ーパクっー
一口食べ終わると、政宗は目元をほんのり赧らめる。
「次は何がいい?」
ふにゃっと笑いながら、愛が政宗を見上げる。
『悪くは無いが…全く集中できねぇな…』
と、口元に不敵な笑みを浮かべる。
「へ?」
間抜けな声を出す愛の顎を、左手で持ち上げると、
掠めるように口付けをする政宗。
「ちょ、ちょっと…何してるの!」
愛が照れ隠しにパシッと政宗を叩くと、
『いてててててっ!ああーー腕がもげたっ!』
政宗が大袈裟に右腕を抑える。
「うそっ!傷には当てなかったつもりだったけど、
ごめんね?大丈夫?傷開いちゃったかな…」
申し訳なさそうな顔で、
慌てて政宗を覗き込む愛の唇を
空かさず掠めとる。
「ちょっと!」
『あははは…お前本当に可愛いな。
傷はなんともねぇ。今すぐお前を抱けるくらいにな』
口元を綻ばせたまま、政宗が愛の頭を自分に寄せて撫でる。
「もう…」
頬っぺたを膨らませて、政宗の腕をすり抜けると、
愛は自分の食事を黙々とはじめる。
『悪かったよ。機嫌直せ』
「…」
ふと横目で政宗を見れば、口を開けてこちらを見ている。
「ぷっ…」