第9章 アイ(家康)
『でも、こうやって愛は俺の前に帰って来てくれて、
こうやって触れたら、もう離せないから。
一緒に居るだけで、何気ない毎日が愛色に変わって行くんだ。
だから…これからもずっと、俺の側にいてよ』
家康の素直な言葉の一つ一つは、愛の心に直接届く。
「当たり前でしょ…。私には、家康の代わりなんていないよ。
もし、家康に嫌われたら、他に行くところなんてない。
私が誰の名前を呼んでも、たった一人家康の名前が呼べなかったら、
なんにも意味がないんだから…」
『愛…。ありがと。
でも、やっぱり、他の男の名前出しちゃダメ』
そう言うと、今度は優しく愛の唇を食む。
何度も啄ばみ、ゆっくりと愛の唇を割ると、
今度は深く口付ける。
角度を変え、愛の吐息も全て絡め取るように。
「んっ…っ…んん…」
長い長い口付けは、チュっと水音を立てて離れる。
『永遠に離せないかと思った』
口元を綻ばせて家康が言う。
「…ばか…」
愛は軽く、トンと家康の胸を叩く。
『続きは後でね。今日は、本当にずっと甘やかし続けさせて。
文にも書いたし、覚悟できてるでしょ?』
家康はいたずらっぽく言うと、愛の髪を優しく撫でる。
「私が家康を離さないから、大丈夫だよ。ふふふ…」
満面の笑みで愛が答える。
『さぁ、まずは二人だけのお花見しよう。
膳もよく見たら豪華だし、みんな愛が帰ってきてくれて、
よっぽど嬉しかったんじゃない?』
愛を縁側に促しながら家康が言う。
「あれ?このきな粉餅…」
政宗じゃない?…そう続けそうになり、
愛は口ごもる。
(危ない…また名前出すところだった)
『ぷっ…政宗さんだろうね。
別に今のは名前言ってもいいところでしょ?』
「そ、そうなの?もう難しいよ…」
頬を膨らませて愛は拗ねてみせる。
『政宗さんには…心配かけたからな…』
「え?」
『何でもないよ。ほら、早く座って』
愛が縁側に一歩出た瞬間に、春の夜の優しい風が吹く。
桜の花びらがフワリと舞い、愛を包んだ。
『愛っ…』
「えっ?」
『桜に攫われるかと思った…』
「大丈夫だよ。ちゃんと居る」