第9章 アイ(家康)
『あー…お前たち…俺らが見えてるのか?』
秀吉が、叱るように声をかける。
ハッとした二人は瞬時に身体を離し、
家康は目を逸らし、愛は照れて俯いている。
『よぉ、愛。三成との温泉に春日山は楽しかったか?』
政宗が何か含みを持たせるような話し方で愛に訊いた。
「う、うん!温泉とっても素敵だった!
次は家康も一緒に行けたらいいね」
そう言うとふにゃりと笑いかける。
( ずっと見たかった…でも、政宗さんには見せないでよ…)
『佐助に会えたのか?』
秀吉に訊かれ、愛はまた笑顔一杯に答える。
「うん!ちゃんと、お誕生日の贈り物渡せたよ!」
「誕生日?」
家康が初めて聞く事に目を丸くする。
「うん。今日が誕生日だからね、佐助くん」
(無闇に持っていったんじゃなくて、誕生日だからだっのか…。
本当に何も聞いてやれなかったな…)
わけもわからず苦笑している家康に、愛は不思議そうに首をかしげる。
「なんでもない。さあ、早く帰ろう。
今日はこのまま御殿に帰るよ」
そう家康が言うと、そっと手を差し出す。
「うん」
と恥ずかしそうに答える愛は、おずおずとその手を取る。
『愛様、本当にお疲れ様でした。
ゆっくりお休みくださいね』
「お前が心配しなくても、ちゃんと休ませる」
家康が愛より先に答える。
「 三成くん、色々ありがとう。
沢山迷惑かけたよね。お世話になりました」
三成は、改めてそう言われると、愛を失う感覚に
なぜか胸の奥がちくりと痛む気がした。
そして、先程まであった腕の中の温もりを思い出す。
(なんでしょう…。この感覚は…)
ぼーっとしている三成をよそに、家康は愛を促し歩き出した。
様子のおかしい三成を気にするように、愛はチラチラ後ろを振り返るが、
「ちゃんと前見ないと転ぶよ…」
という声と、自分を引き寄せる家康の手に、慌てて愛は前を見た。
歩きながら、家康は絞り出すように言う。
「 早く帰ろう…。早く…愛に触れさせて…」
その切ない声に驚き家康を見れば、愛しい人の顔が近づき、唇に軽くふれた。
「家康…逢いたかった…」
今度は愛から唇に触れる。
「ダメだ…早く帰るよ」