第9章 アイ(家康)
愛達が明日の晩戻ると安土城に連絡が来たのは
一日先に政宗と到着していた家康が、
信長に誘われ四人だけの小さな宴をしていた最中だった。
知らせが来てから家康はずっとそわそわしていた。
急に不安になったと言っても良いかもしれない。
知らせを受けても、いまいち晴れない顔をしている家康に、
政宗は小声で言う。
『なんか、嬉しそうじゃないな、お前』
嬉しくないわけがない。
逢えなかった間、ずっと考えて来た一番愛しい人に
漸く逢えるのだから。
「嬉しいというか、安心はしてます。
愛がちゃんと帰ってくるって言うことには…」
『じゃあなんで、そんな顔してる?』
不思議そうに政宗が聞くと、
「文、送りましたけど…、それで安心してしまったけど…、
愛から返事が来てる訳でもないのに、俺は、何に安心してたんでしょう」
自分の気持ちを書いた文を送ったことで、
自分のモヤモヤ晴らしていたけど、
愛が何を思っているかは知らないままだということに気づく。
心が離れてしまっている可能性を、今の今まで微塵も思わなかったが、
旅立ちの日、自分も声をかけなかったが、
愛からも何も言われなかったのを今更ながら、不安に思い出す。
明日、本当に抱きしめて、甘やかす事ができるのだろうか。
謙信には奪われていないみたいだけど、佐助は?
佐助にだけ贈り物も用意していた。
考えたくないけど、三成は?愛が最初から一番心を許していた相手だ…。
考えれば考えるほど、自分の文が滑稽だったのではないかと不安になる。
送った時は、気持ちを早く伝えたい気持ちで精一杯だった。
(また…自分の事だけしか考えてなかったな…)
三日目の宿屋で政宗に言われた事を思い出して、
自分自身に苦笑する家康だった。