第9章 アイ(家康)
春日山からの帰りの道中は、
三成と愛に加え、家康の家臣、
そして、安土が近づくと、光秀も合流した。
『三成、ご苦労だったな。
お前の作戦にしてやはり正解だった。
愛も、良く…』
頑張った。光秀がそう伝えようと、三成の背後を見れば、
うつらうつらと、船を漕いでいる愛が、
馬から落ちそうになると、ビクっと目を覚ましているのが見える。
『おい、三成、馬を止めろ』
『え?』
驚いた三成が馬を止めて振り返れば、
それさえ気付かずに眠っている愛が見えた。
『光秀さんがいて下さって良かったです。
愛様に落馬させるところでした…』
『おい、愛、起きろ!落ちるぞ』
光秀が肩を叩くと、愛はハッと目を覚まし、
キョロキョロと首を振る。
「やだ、私…。ごめんね、三成くん。
大丈夫、ちゃんと起きてるから。わぁ、光秀さん!」
どのくらいウトウトしていたのか、
いつの間にか隣に馬を並べている光秀に驚く愛を見て、
『愛様、私の前にお乗り下さい。
そうすれば、寝てしまっても問題ありませんから』
そう言うと、笑顔で馬を降り、愛を前に促す。
もう一度馬に乗り込んだ三成の腕の中に、
スッポリと閉じ込められる形になった。
(こ、これはちょっと恥ずかしいくらい近いんじゃ…)
『ククっ、これは今すぐ家康に教えてやりたい絵だな。
早馬でも飛ばすか?』
そう言うと、人の悪そうに光秀が笑う。
「ちょっと光秀さん!」
『では、愛様行きますよ。
この分だとあと半日程で到着しますから、
早くお城に帰りましょうね』
三成はそう言うと、馬を走らせ始める。
最初は緊張していた愛だったが、
連日の睡眠不足の身体には馬の揺れは心地よく、
いつの間にか三成の腕の中ですっかり眠りについていた。