第9章 アイ(家康)
愛に文を出し、安土城へと急ぐ家康と政宗。
『お前…本当に届けさせたのか?』
政宗は、呆れたように家康に話しかける。
「政宗さんがそうしろって言ったんじゃないですか…」
不機嫌そうな家康が答える。
『いや…まぁそうかもしれねぇけど、
早馬で文が届けば、三成のやつびっくりするんじゃないか…』
「俺は愛をびっくりさせたいだけで、
三成はどうでもいいんです」
と、更に不機嫌そうに言う家康。
『で?お前、なんて書いたんだ。
あんなに書き直したんだ、さぞかし良い文になったんだろ?』
先ほどまでの呆れ顔は影を潜ませ、
ニヤニヤと笑いながら政宗が言う。
政宗が夜中に目を覚ませば、一人文机に向かい熱心に何かを書いている家康は、
なんども書いては丸め、書いては丸めを繰り返していた。
後でこっそり丸めた文を覗いてやろうと思っていたが、
朝になれば綺麗さっぱり片付けられ、文は夜のうちに家臣に早馬を出させていた。
「別に…政宗さんには関係ないじゃないですか…」
『恋文の早馬なんて聞いたことがないからなぁ。
数日後には逢えるんだろ?そんな相手に出す恋文、
気にならない方がおかしいだろ?』
「政宗さんにだけは、絶対教えません」
いつもの調子が戻った家康に、政宗はどこか安心すら覚える。
『そうかよ。ま、せいぜい早く帰って甘やかし倒すんだな。
あいつも、こんな面倒くさい奴じゃなくて、俺にしとけばいいのになぁ。
よし、さっさと帰って、もう一度愛を口説くとするか』
そう言うと、政宗は思いっきり馬を飛ばし出す。
政宗の言葉に、呆気に取られていた家康は、
突然疾走し出した政宗を慌てて追いかけようとするが…
「普通に帰っても、こっちが先に安土に入るんじゃないか…」
取り残された、政宗の家臣達に、
「あんた達も、毎度大変だね」
と、声をかけ、
「まぁ…でも、多少は急ぐか…」
(早く着いて、ちゃんと愛を出迎えたい)
馬の横腹を蹴り、政宗の消えて行った方を追いかけ出した。