第9章 アイ(家康)
愛へ。
出立前に悲しませてごめん。本当は、誰よりも愛の事を信じてる。
笑顔で送り出せなくて、ごめん。
毎日、愛が泣いている夢を見てあんたの笑顔が思い出せなくなった。
安土で再会した時には、いっぱい甘やかすから、俺の大好きな笑顔沢山見せて。
ただ愛しくて、愛しくて、愛が消えてしまうのが怖かった。
見えないものを信じるの、慣れてないのは本当。
でも、愛に触れて、声を聞いて、側にいて
もうあんた無しの世の中は考えられないんだ。
いつも素直に言えなくて、悲しませて、ごめん…
先に帰ってるから、愛も無事に戻ってきて、早く抱きしめさせて。
「家康…」
文を読みながら、愛はポロポロと涙を流す。
愛は、文を持ってきてくれた家康の家臣に、
泣き笑いの顔で近づく。
「お疲れのところ、わざわざ申し訳ありませんでした。
でもあなたは、私が一番嬉しく思う物を届けて下さいました。
本当に本当に感謝します…」
労いの言葉をかけられ、
愛に両手を握られた家臣は少し顔を赧らめながら、
『いえ…そのようなお言葉、私には勿体のうございます。
家康様と愛様のお役に立てたのでしたら、私も嬉しいです』
そう気持ちを伝える。
『愛さん、ラブレターが届いたの?』
少し酔った佐助が嬉しそうな愛の顔を見て言う。
『らぶれたぁ?なんだそりゃ?』
幸村が怪訝な顔で訊く。
『いわゆる、恋文だ』
佐助が答えると、
『はぁ?わざわざ早馬で恋文だと?
そりゃまぁ、なんというか、ご苦労なことだな…』
と、幸村は家康の家臣に憐れみの表情を向けた。
『幸?お前には一生できないだろうなぁ。
見てごらん、天女の顔を。今までで一番の笑顔じゃないか。
悔しいが、愛は家康を本当に好いているんだなぁ』
信玄がチラと謙信を見ながら言う。
謙信は、その言葉に立ち上がり、
愛に近づくと、
『それを見せろ』
と迫る。
「えっ?これは駄目ですよ!」
愛はサッと文を胸元に仕舞い込んだ。
『見せろと言っておる』
「駄目です!」
いつのまにか、桜の木の下では
愛と謙信の追いかけっこが始まっていたのだった。