第1章 ワームホールはすぐ側に(家康)
家康は殊の外苛立っていた。
すぐに終わるだろうと思っていた、信長への報告は、
全員が集まるのが久しぶりと言う事で、
全員が今までの報告をし合うこととなった。
家康もさる事ながら、秀吉もこの状況を
やきもきしていた。
空模様が悪くなっている事に加え、
家康が愛と一緒にいない事が
不安でならなかった。
そんな状況を打ち破ったのは、光秀の一言だ。
『時に家康、お前は今日城下の見廻りに行くと言ってなかったか?』
と、ニヤリと言う。
急な事に面食らった家康は、
「は?なんです…?」と、不機嫌そうだ。
『もう時期、雨も強くなるだろう。
早く城下の野原辺りは先に行っておいたほうがいいんじゃないか?』
家康は、〈城下の野原〉という言葉に反応し、
目を丸くする。
それを見ていた秀吉は、光秀に便乗し、
『そうだぞ、家康、昨日頼んでおいただろう。
悪天になる前に、頼むぞ』
と言った。
「なんだ家康、貴様まだ仕事を抱えているのか。
ならば、さっさと済ませて来い。
今宵は、久しぶりに愛も呼んで宴をするぞ。」
信長が、視線だけで家康を見ると、
早く行けと促す。
「それでは、失礼いたします。」
そう言うと、まずは愛の部屋に急ぐ。
そこに愛はおらず、佐助が待ち構えていた。
『家康さん、すみません。
愛さんに巻かれました…。
愛さんが行きそうな場所に心当たりは…』
そう聞いた家康は、ドクンと心臓が冷えたのを感じた。
(まさか…本当に帰るつもりなんじゃ…)
全身の毛が逆立つような錯覚に陥る。
今朝起こしておけば良かった。
今日は、ずっと愛を抱きしめていようって決めていたのに。
「心当たりなら、ある。」
確信を持って、そう答えた。
『では急ぎましょう。
まだ遠いですが、雷も鳴り出しました。
時間がありません。』
出かけようとすると、外から足音が近づいてきた。
佐助はすかさず天井裏へと身を寄せる。
『愛っ』
襖を開けたのは秀吉だった。
「秀吉さん。愛なら居ません。
今から迎えに行きます。」
『1人で大丈夫か?』
心配そうな秀吉の声に、
天井から逆さの顔がニュッと出る。
『俺もいますよ』