第1章 ワームホールはすぐ側に(家康)
その頃、佐助は焦っていた。
いつまで経っても朝餉の用意はされず、
一向に愛も現れない。
(まさか…忍を巻いたのか…)
佐助は急いで愛の部屋に戻るが
こちらも、もちろんもぬけの殻。
一刻も早く愛を見つけ出さなければ。
その前に、家康だけには状況を伝えておこうと
天井裏を駆けずり回っているのだった。
大きな木の下は思っていた通り、
雨を感じさせない。
此処は、家康との思い出の場所だ。
想いが通じ合った時が思い出された。
(いえやすって呼ぶ事になったのも此処だな…)
愛は、家康に内緒で良くここを訪れていた。
大好きで落ち着く場所になっていた。
(本当は家康と一緒に来れたらいいんだけどな…)
雨の野原は、空こそ暗いが、草花は雫に濡れキラキラしている。
愛は何をするでもなく、
ボーッとそれを眺めながら、朝ご飯に手をつける。
そして、家康の事を想う。
今日、家康はどんな事を思っているのか。
もしかしたら、会いに来てるかな。
そうだといいな…
急に帰って来てしまって、驚いただろう。
帰ったら、自分から謝ろう。
いつまでも、こんな気持ちは嫌だから。
でも、一抹の不安もある。
もし、本当に愛想を尽かされていたら…
もし、本当に帰ればよかったのにと思われていたら…
そんな杞憂に囚われているうちに、
時間は大分経っていた。
雨は次第に強くなってきたようだ。
空もいつの間にか真っ暗な雲に覆われている。
だいぶ遠くではあるが、雷も鳴っているようだ。
そこで愛は漸く思い出す。
(あれ…?もしかして今日って…)
佐助の手紙を思い出す。
【外に出なければ大丈夫だから…】
(あぁ、あれ今日だったのか…。
早く帰らなきゃ…帰らなきゃ…なのかな…)