第9章 アイ(家康)
『よぉ!愛!げんきだったか?』
春日山城の城門につくと、そこには幸村と佐助が待っていてくれた。
『三成さん、愛さん、長旅お疲れ様でした』
明るい声の幸村と、いつも通りの佐助に愛の顔も綻ぶ。
「佐助くん、幸村、久しぶり!みんな元気にしてる?」
(この道中で一番の笑顔が出ましたね。お元気がないようでしたから…)
三成は幸村と佐助に零す愛の笑顔を複雑な表情で見ていた。
「本日は、お世話になります」
三成は二人に頭をさげる。
『謙信様も信玄様もお待ちかねだ』
幸村が出した二人の名前に、三成は警戒を深める。
『早く連れて行かないと斬られるので、お二人ともどうぞ中へ』
佐助が愛と三成を促す。
『俺が馬を回しておいてやるから、先に行けよ!』
幸村がそう言うと、佐助が馬から荷物を降ろす。
三成の視線に気づいた幸村が、
『安心しろ。ちゃんと馬小屋に置いておく。
今日はちゃんと客人を持て成せと言われてるからな』
と、三成に向かって言う。
「ええ。よろしくお願い致します」
笑顔を封じ込めた三成が幸村に言う。
佐助に連れられ、広間に通されると、
そこには謙信と信玄が座っていた。
『やっと来たか。遅かったではないか』
謙信が言えば、
『おい、謙信。まだ昼餉前だぞー?
天女にこんなに早く逢えるとは、今日はいい一日じゃないか』
と、信玄が愛に近づき長い髪に口付けを落とす。
「ちょ、ちょっと信玄様っ…」
愛は顔を紅く染め、慌てて三成の後ろに隠れる。
『おい、信玄。お前は口説き文句しか言えないのか。
愛も、早くこっちに来い』
「でも…」
チラッと三成を覗き見ると、全く顔は綻んでおらず、
自分の後ろに隠れた愛の手をしっかりと握る。
「本日は、お招き頂きありがとうございます」
表情を崩さず言う三成に、謙信は
『愛しか招いておらん』
と不機嫌そうに答える。
三成も負けじと、
「ええ。その愛様の護衛を、家康様より仰せつかっての参上でございます」
そうきっぱりと答える。
『家康…か』
苦々しい名前を呼ぶように謙信が口を開く。