第9章 アイ(家康)
安土を出た三成と愛は、
予定通り協定を結ぶはずの国に入り、
無事に湯治の旅を満喫する体を過ごしていた。
もちろん、三成と光秀の偵察は水面下で行われている。
『愛様、この度はお付き合いいただいてありがとうございました。
無事に視察も済み、協定の準備も無事に整いそうです。
明日には出立し、春日山城に入りますので、今日一日ごゆっくりおくつろぎ下さい』
宿に戻った三成は、笑顔で愛に告げる。
「うまくいったんだね!良かった」
愛は一つ肩の荷が降りたようにホッとする。
『後ほど、光秀さんもいらっしゃるはずなので
今晩は三人での夕餉になりますよ』
「光秀さんに会うの凄く久しぶりだな。
明日は春日山城か…。みんな元気かな」
『愛様と佐助殿は、ご友人でいらっしゃるんですよね。
家康様よりお伺いしております』
三成は少し厳しさを携えた表情で愛に伝える。
『あまり、油断はなさらないで下さいね。
家康様からお預かりしている愛様の身柄、
少しでも危険のないようにお守りいたしますので』
三成の真摯な言葉を聞き、愛は別れ際の家康を思い出し、
胸がチクリと傷んだ。
泣き顔は見せなかったはずだ。
それでも、本当はもっと違う旅立ちをしたかった。
暫く逢えないというだけで、本当は泣きたいくらい寂しかった。
その上で、あのやりとりがあったことは本当に辛かったのは事実だ。
「家康、大丈夫かな…」
そう呟く愛に、三成はしっかりした口調で告げる。
『家康様と政宗様に何かあった時は早馬がこちらにも来ることになっていますが、
音沙汰がないという事は、上手くいっているという事でしょう』
「そっか…ならいいんだけど」
『愛様?』
愛の浮かない顔に三成は心配顔をする。
今日までずっと、家康の言葉が何度も頭を巡り
うまく眠れなかった。
『夕餉までまだたっぷり時間がありますから、
愛様は温泉に入ったりして、ゆっくり過ごして下さいね』
そう言う三成に、愛は作り笑顔で言う。
「 そうだね、ここのお湯素晴らしかったから、また入ってこようかな」
(愛様…大分お疲れの様ですね…)