第9章 アイ(家康)
『お前、そんなに魘されるくらいの夢って、
どんな夢見てんだ?あの日、何があったんだ』
宿屋の朝餉を取りながら、政宗が訊く。
『流石に三日連続はひどいぞ…
明日には大名に会うんだ。しっかりしてくれよ』
「すみません…。俺が悪いんです」
それを聞いた政宗は呆れた顔で、
『愛が悪いわけないのはわかってる。何をしたんだよ、お前』
と言う。
家康は一つ溜息をつくと、観念したように話し出す。
「俺がみっともなく嫉妬して…。愛が信じてって言ったのを、
目に見えないものを信じるのは慣れてない…って言いました。
そしたら…多分愛は泣いてたと思…」
言い終わらないうちに、政宗が家康の頭をポカッと叩く。
「いって…何するんですか!」
家康が睨むが、政宗は真剣な顔で言う。
『お前なぁ。それでお前が魘されてるっていうのか?
それじゃあ、愛は今頃魘される間も無く、眠れてないだろうな』
その言葉に家康はハッとする。
愛を泣かせてしまった自分を責めて、
謙信や佐助、三成への嫉妬にもがいていた。
でも、本当にあの時辛かったのは、泣く程悲しかったのに
家康に涙を見せないようにと堪えた愛だっただろう。
『その様子じゃ、今まで自分の事しか考えてなかったな、お前』
追い打ちをかける政宗の言葉に、
「はい…」
と、しか答えられなかった。
『大方、謙信にでも愛を取られる夢でも見てるのか?
そりゃ、そんな辛い事言われたら、愛だって…』
今度は政宗が言い終わらないうちに家康が政宗の胸ぐらを掴む。
『ぐっ、おいっ…』
「それ以上言ったら、斬ります。いくら政宗さんでも」
『おい…落ち着け…』
家康は漸く政宗を離すと、
「いつだって俺は愛を…」
絞り出すように家康が言う。
『お前はあいつを信じてやれないのか?』
胸元を正しながら政宗が訊く。
「誰よりも信じてますよ。
俺が夢で魘されてるのは、自分のせいだってわかってます。
ただ…愛しくて、その分、いなくなるのが怖いだけです…。
こんな思い初めてなんで…」
政宗は家康の本音に少し驚く。
『それを愛に言ってやればいいだけだろ。
お前のことあんなに惚れてる女は他にいないんだからな』