第9章 アイ(家康)
出がけの愛を泣かしてしまった家康は、
心が晴れないまま見送りの中にいた。
愛は、既に三成と一緒に馬に乗っている。
先程、愛は自分の着物を正しながら、心配してくれたのに、
自分は嫉妬だけで優しい言葉もかけられなかった事に後悔する。
『愛、楽しんでこいよ。あんまり気を張るな』
政宗が馬上を見上げて声をかける。
「うん。政宗も気をつけて行って来てね。
もうすぐ立つんでしょ?」
『おぅ。あと一刻ほどで立つ予定だ。
家康には声かけなくていいのか?』
政宗の問いに、困った様な顔で愛は言う。
「大丈夫…」
『おい、お前らまさか…』
政宗が何か言いかけた時、
『それでは出発しますよ、愛様』
三成が振り返り声をかける。
「うん。宜しくお願いします」
愛が三成に微笑みながら頷く。
『おい、家康、お前愛に声かけなくていいのか?』
隣で秀吉が慌てたように言うが、家康は何も言わない。
『おい、家康!』
「ほっといて下さい…」
秀吉は呆れた顔で家康を見た。
そんなやり取りをしている間に三成の馬は出発する。
『良かったのか本当に…』
秀吉が家康の頭をポンポンと叩く。
「やめて下さいよ…。
良かったわけないでしょ…」
愛の背中が見えなくなった頃、
『おい、俺たちもそろそろ準備するぞ』
政宗が家康の肩を叩きながら通り過ぎる。
「はい…」
家康は踵を返し、準備に戻る。
『おい、政宗、あいつ大丈夫か?』
秀吉が不安そうに訊く。
『さぁな。もう行っちまったもんは仕方ねぇだろ』
政宗も肩をすくませて言う。
『とりあえず、さっさと終わらせて帰って来るしかねぇな』
政宗もその場から立ち去る。
一人残った秀吉も、溜息を一つつくと
自分の職務に戻っていった。