第1章 ワームホールはすぐ側に(家康)
家康が部屋を出て、しばらくした頃、
愛は漸く目を覚ました。
ボーッと部屋を見渡し、目を擦ると、
(あれ。泣いてる…)
自分の涙に触れる。
起きて鏡をみると、酷い顔だ。
(私なんで泣いて…
あ…ヒロトが…)
唯一見た夢を思い出す。
居なくなってから、一度も夢に出て来たことがない
元恋人が、このタイミングで出てきて
【振り返るな。大切なもの手放すなよ…】と言った。
庭に目をやると、外は雨が降っている。
(雨か…)
愛には無性に行きたい場所があった。
仕事が落ち着いたら、ゆっくり行きたかった、
大切な場所。
(雨だけど、大きな木もあるし雨宿りできるよね)
女中が入ってきて、朝餉を取っておいてくれてると話す。
「ありがとうございます。」そう言うと、
食事をしに、女中と共に部屋を出る。
佐助は、愛が出掛ける用意をしているとは
気づかなかった。
特に化粧をしたわけでもない。
それは、起きてから女子がやるであろう一通りのこと。
流石に着替えを見ているわけにもいかない。
天井で、そうっと先に食事処に移動していた。
しかし、愛の向かった先は台所。
女中に頼んで、朝餉を簡単なおにぎりにしてもらっていた。
「すぐ帰りますから。
どうしても行きたいところがあって。」
『雨が強くなりそうですから、
お昼前には戻って下さいね』
そう女中から言われる。
信長から貰った、お気に入りの傘を差し、
愛は城を後にした。
向かった先は城下の野原。
途中、御殿から城に向かう光秀に声をかけられる。
『こんな天気に何処に行くんだ?』
「おはようございます、光秀さん。
仕事がひと段落したら、行こうと思ってた城下の野原へ。」
『なら、尚更晴れた日に行けばいいだろう。
そのうち嵐のようになるぞ。』
「昼前には戻りますよ。
いつ暇が出来るかもわからないので。
あ、心配するから秀吉さんには言わないで下さいね。
あと…家康にも。」
ふぅん。
口元をニヤつかせ、光秀は全てを悟った。
『まぁ、気をつけて行けよ。
早く戻れ。俺が言わなくても、
あやつらは勘づくだろうよ。』
「はい。行ってきます。」
小走りに向かう愛の後ろ姿を見送り
『手が焼けるな。』
そう言いながらクスりと笑う光秀。