第9章 アイ(家康)
「はぁ…」
三成がいなくなると、また一つ家康は溜息をつく。
『おい、お前今からそんなんで大丈夫なのか?
今回の役目、殆どお前にかかってるんだぞ』
政宗が笑いを収め、珍しく心配そうに言う。
「 大丈夫ですよ。俺一人でも問題ないくらいです。
政宗さんの手は煩わせませんよ」
言葉とは裏腹に、家康の顔は晴れない。
『そんなに気になるなら、愛を行かせないように、
信長様に頼んだらどうだ』
政宗の提案に、
「出来ることならやってます。
あの人は一度決めたら誰の意見もききませんよ。
それに、作戦としては否定はしない…」
頭ではわかっていても、心がついていかない。
家康はこんな気持ちになるのは生まれて初めてだと思った。
いつも戦で勝つこと、自分が強くなることだけを考えてきた。
でも、愛と出会ってしまった今では、
沢山の幸せを感じると同時に、それを失う事の恐ろしさもいつも感じている。
愛が裏切ることはない…と、しっかりわかっていても。
「家康!大丈夫なの?」
焦ったような愛の声が聞こえて、ハッとする。
顔を上げると、心配そうに自分を見つめる愛しい顔があった。
驚いて何も言えないでいると、愛が手のひらを家康のおでこにあてる。
「ちょっと…急に何?」
触れられて嬉しいのに、口をつくのはきつい言葉だけ。
「ごめん…三成くんが、家康の具合が悪いって…」
愛は慌てて手を引っ込め、申し訳なさそうに謝る。
『愛、家康をさっさと休ませてやれ。
心の病にかかってるみたいだから、ちゃんと沢山優しくしてやれよ』
政宗は面白そうにそう言うと、その場を立ち去る。
「余計な事を…」
苦々しく呟く家康に、
「大丈夫…なの?
信長様に言って、早く抜けさせてもらおうか?」
愛が困ったように家康を見る。