第9章 アイ(家康)
その夜は、信長が言った通り盛大な宴が開かれた。
これが過ぎれば、この面子が顔を合わせるのは暫くないだろう。
各々がその気持ちを秘めながら、思い思いに宴を楽しんでいた。
ただ一人を除いては…。
「はぁ…」
家康は何度目かわからないため息をついていた。
ふと、愛を見れば、
信長や秀吉と談笑しながら楽しそうに酌をしている。
「ほんと呑気…はぁ…」
『家康様?どこか体調が優れないのですか?
先程から溜息ばかりのようですが…』
いつからいたのか、隣では三成が心配そうに家康の顔を覗いている。
「全く元気だったけど、たった今お前の顔みたら、具合悪くなった」
家康が嫌味たっぷりで言うが、
『それはいけませんね!
早くお休みになられた方が良いのではありませんか?
愛様にお伝えしてきましょうか?』
三成は本当に心配そうな声で言うと、
愛を呼ぼうと立ち上がりかける。
「ちょっと。余計なことしないで」
慌てて三成の着物をひっぱり座らせる。
『これから家康様は大変なお仕事が待ち構えてるのですから、
ご無理なされては…』
「おい、三成。家康の事はほっとけ。具合何か悪くないだろう。
強いて言えば、愛がお前と一緒にいる事に、気が病んでるだけだ」
政宗が、面白そうに会話に加わり、家康を揶揄う。
だが、三成はそれすら真面目に受け取り、
『家康様、ご心配いりませんよ。
愛様からは一時も離れずにお守りしますから』
と、余計に家康の機嫌を損ねるとはつゆも思わずに、
真剣な面持ちで言う。
「もうわかったから、あっちで秀吉さんでも構ってなよ。
暫く会えないんでしょ」
(お前が一緒にいることが気にくわないってこと、
本当に気づかないなんて、どんだけ鈍感なの…)
『ありがとうございます。
家康様はいつも私のようなものに気を使って頂いて…
本当に優しくて素晴らしいお方です。
愛様がお慕いする気持ちがよくわかります!』
満面の笑みで話す三成をみて、政宗は堪えきれずに吹き出す。
「ぶっ…ははは、三成、もういいから早く行け。
そのうち家康が刀を抜くぞ。あははは」
政宗の言葉の意味がわからない三成は、キョトンと首をかしげながらも、
『では、本当にご無理なさらず』
と、腰を上げ、秀吉の元へ去っていった。