第9章 アイ(家康)
「気まぐれって…」
そう呟いた愛だが、春日山城に近いと聞くと悪い気はしなかった。
(佐助君、ずっと会ってないけど元気かな…。
渡したいものあったけど、ずっと渡せてないし)
『面白い案だな。わかったそれでやってみろ』
「はっ。自分は表立っては入りませんが、常に隠密で行動します」
光秀はそう言うと、家康をチラっと見る。
あからさまに不機嫌な家康の顔に、
「 これは、仕事だ。割り切れ、家康」
と声をかける。
『わかってますよ…。でもなんでよりによって三成…』
最後の方は誰にも聞こえないくらいの声になる。
「あえて、上杉には愛行く事を伝えます」
光秀の言葉に一度は収めた家康が声を荒げる。
『なんの為に!やっぱ危険じゃないですか』
「家康…」
愛は困った顔で家康を見る。
その様子を見ていた三成が、
「いえ、その方が信憑性が出るかと思います。
どちらにしろ、あの場所へ行く為には、
春日山付近を通過しなければなりません。
黙っていて見つかるよりは、事前に伝え、
姫の旅のため、手出しをさせないようにと約束させます」
『そんな事可能なのか?』
秀吉が不安そうに三成に聞く。
「実は…もう手は打っています。
交換条件で約束させています」
『交換条件?』
ますます家康は嫌な予感がする。
「はい。春日山城に必ず寄って、愛様の顔を見せるという…」
『そんなの余計駄目だろ!』
家康は、謙信が人目も気にせず追いかけっこまでして、
愛を奪おうとしていることを忘れていない。
『三成一人で大丈夫なのか?色々不安な案だな。
俺も同行しても構わないぞ』
秀吉が言うが、
「いえ、秀吉様は、家康様の件とわたくしの件、
どちらかに不穏な動きがあった場合に、すぐに兵を出せるように
安土で待機していただきたいのです」
(不穏な…。兵って…)
愛は、春日山城への交換条件の不安事よりも、
この作戦が常に不安定なものだという事を思い知る。
『愛、良かったな。貴様が役に立つ時がきた。しっかりやれ』
信長が笑いながら愛に声をかける。
(織田軍の為だもんね。私も出来ることしなきゃ)
「 わかりました。織田軍のみなさんのお役に立てるように頑張ります」