第8章 私が髪を切る理由(幸村)
秀吉は、愛を連れて桜の丘を奥に進む。
少し歩いたところで、重を広げて待っている幸村と佐助の姿が見える。
(よかった。ちゃんといたか…)
『ほら、愛、着いたぞ』
秀吉より少し遅れて歩いていた愛は、
いるはずのない二人を見つけ、目を丸くする。
「秀吉さん…これは…」
驚いて言葉の出てこない愛は、
秀吉を見上げて口をパクパクする。
『さぁ、行こうか』
秀吉は優しく微笑み、愛の腰に手を回し、
歩くように促す。
訳のわからないまま、幸村と佐助の元へと辿り着く。
いつもより、幾分表情の柔らかい佐助が、
『愛さん、待ってたよ。さぁ…』
そういうと、広げられた敷物へと愛をエスコートする。
幸村の隣に座らされた愛は、
何も言わずに不安そうに秀吉に目を向ける。
『そんな顔するな。今日はゆっくり楽しもうじゃないか』
そう言うと、遅れて愛の横へ、幸村とは反対隣に座る。
「遅かったじゃねーか…」
幸村が、照れ臭そうに目線をはずしたまま
愛に向かって声をかける。
「今日、あの娘と会うんじゃなかったの…」
小さな声で愛が同じように俯いたまま訊く。
「えっ?」
愛の言葉に心底驚いた幸村は、目を丸くして愛を見る。
俯いたまま目が合わない愛をずっと見つめていると、
『幸、またなんか愛さんを悲しませるような事したの?』
と、佐助が話しかける。
『そんなにいつも愛を悲しませてるのか?』
秀吉が軽く睨むように幸村を見る。
「ちょ…またってなんだよ!俺は何にもしてないぞ!
こいつが勝手に怒っていなくなっただけで…」
幸村は少しムッとしたように反論した。
「何にもしてない?!嘘つき!」
愛も声を荒げて幸村を睨む。
『おいおい…こんな景色の中で喧嘩はよせ』
困った様に秀吉が仲裁に入り、愛に聞いた事情を幸村に話し、
真相を問い詰める。
「はぁ?そんなのお前の勝手な勘違いだろ!
俺は、あいつが勝手な事抜かすから、呼び止めて文句を言っただけだ」
そう言うと幸村は腕を組んでそっぽを向く。
「え?そ、そうなの?」