第8章 私が髪を切る理由(幸村)
秀吉は愛の抱えてたものが、
思っていたよりもずっと深いものだった事を知り、
胸が苦しくなるのを感じる。
あんなにいつも無邪気に笑顔を見せ、
真っ直ぐな目で物事を捉え、
泣き虫でか弱いながらも、芯はしっかりと持っている。
そんな愛の中に、そんな辛い過去がある事に
驚きを隠せないでいた。
『幸、大丈夫か?』
佐助は、未だ放心状態でいる幸村を心配する。
「あ、あぁ…。
あいつにどんな過去があろうが、
この先ずっと俺が守ってやるから問題ねぇ」
「その事なんだが…」
秀吉がまっすぐな目で幸村を見る。
急な雰囲気の違いに、幸村も真っ直ぐに秀吉を見た。
「愛を守るということは、相当な覚悟が必要だ。
特に俺たちには」
「どういう事だ」
「さっき佐助が言ったように、
愛は俺たちが想像を絶する傷抱えている。
確かに、傷は時間が経てば薄れるかもしれない。
だけど、もう二度とそんな思いをさせてはならないんだ」
秀吉の言葉の真意をはかりかねる幸村。
「何が言いたい」
その声は少し苛立ちも混ざっているようだった。
「俺とお前は、今敵対関係にある。
いつ戦ってもおかしくない。
本来ならお前を城安土で見つけた瞬間から、斬り合いになってもな」
そこまで聞いて、幸村はハッとする。
「そうか…。
俺とあんた…〈二人とも生きていること〉が大切ってことか…」
「そういう事だ。お前が俺を斬っても、俺がお前を倒しても、
どっちにしても、片方では意味がない。
愛を本当の意味で守るということは、
この時代到底難しいという事だ」
『なるほど。さすが秀吉さんだな』
佐助が心底感心したように声を出す。
『まさに、此処にくる直前は愛さんは婚約者と兄を亡くしたのは
全部自分のせいだ、と生きている意味が見つけられずに…』
「おい!」
幸村が慌てて大きな声を出す。
佐助は黙って頷く。
「命を絶とうとしたっていうことか…」
秀吉が苦しげな声を絞り出す。
『そういう事ですね』
佐助の返事に、幸村は苛立ちを隠さずに
「サラッと言ってるんじゃねぇよ!」
と、声を荒げた。