第8章 私が髪を切る理由(幸村)
幸村と愛が、安土城へと向かって歩いている頃、
愛の帰りが遅いことを心配した織田軍の面々は総出で
城下の捜索をする話がされていた。
しかし、秀吉の一言でそれは阻止される。
「俺は愛がどこに出向いているか心当たりがあります。
遅くなったら、そこへ迎えに行くと言ってあるので、俺が一人行きましょう。
揃いも揃って捜索する必要も無いかと」
信長を始めとした織田軍の武将が集まった広間で秀吉が申し出た。
「確かに。愛のために全員でってのもね。
もう子供じゃないんだし」
家康も秀吉に賛成する。
「 秀吉、お前だけいいとこ見せようとしてるんじゃないだろうな?」
腑に落ちないような声の政宗の言葉に、
「世話焼きに任せておけば、間違いあるまい」
光秀が笑みを浮かべて言う。
「愛を見つけたら、すぐに連れ帰れよ」
信長の言葉に、
「はっ」
と返事をし、秀吉は広間を出る。
(ふぅ…なんとかなったな。
全く愛も夕餉までに帰るという約束だというのに…)
「見つけたら説教だな」
呟きながら城を出た。
「遅くなっちゃったな…。秀吉さんに怒られるな」
そう呟く愛に、幸村は、
『お前、何て言って出てきたんだ?』
と訊く。
「幸村と逢うって行ってきたよ?」
その言葉に焦った声で、
『お、おい、それまずくねぇか?
織田軍の敵なんだぞ一応…』
「一応じゃなくて、れっきとした敵でしょ?」
そう言うとクスクス笑う愛。
『俺たちが安土に潜入してるのもバレてるのか?』
「ていうか、謙信様も信玄様も、あんなに堂々と城下で過ごしてて
バレないほど、織田軍は甘くないですぞ?」
少し戯けて言う愛の顔はニコニコと嬉しそうだ。
『お前、なんでそんなに笑ってられるんだよ…』
幸村は難しい顔で言う。
「ねぇ、幸村?」
『なんだよ』
「秀吉さんは、〈幸村に逢う〉って言っても、
私を行かせてくれたんだよ」
幸村はハッとした顔で愛を見る。
「さっきの着物の反物を買う時も、
ちゃんと幸村への贈り物をしたいって言ったの」
その言葉を聞き、あの日、反物屋から出てくる二人の姿が鮮明に思い出された。