第8章 私が髪を切る理由(幸村)
『おい、本当にお前、愛が来たら居なくなるのかよ』
幸村はお茶を啜りながら佐助に3回目の同じ台詞を言う。
「何回言わせるんだ。俺がいたら完全に邪魔じゃないか」
同じ台詞に苛立ちもせず、淡々と佐助が言う。
『そりゃそうかもしれねぇけど…』
「いらっしゃいませ!
おや、愛様、素敵な髪型ですね!
今日はお一人ですか?」
甘味処の主人は愛を見つけると、愛想よく迎え入れる。
「いえ、今日は待ち合わせで…あ!いました!」
そう言うと、奥の席の幸村と佐助に歩み寄る。
「え?あの方達は愛様のお知り合いでしたか!」
驚く主人に、少し照れながら
「えぇ、まぁ…」
と口籠る。
『おせーぞ!…って、お前、髪…』
幸村が愛の髪型に驚いて言葉を失くす。
「変…かな?」
少し自信なさそうに二人を見つめる。
「いやぁ、愛さん、流石だよ。
とっても似合っている」
佐助が心底感心していると、幸村が口を開く。
『なんで髪切ったんだよ…』
幸村が不機嫌そうな声を出す。
「え?髪は切ってないよ。
本当は切りたかったけど、どうしていいかわからなくて…」
愛は長い髪を上手く内側に結い上げて、
ボブ位の長さに整えていた。
遠目からや、見慣れてない者には長い髪をバッサリ切ったように見えたかもしれない。
「ま、ひとまず俺は退散するよ。
幸、間違っても喧嘩するなよ」
佐助がポンと幸村の肩を叩き、店を出る。
『本当に行っちまったよ…』
そう呟くと、気まづそうに愛を見る。
「座っていい?」
久し振りに逢えたというのに、
不機嫌そうな幸村に困惑しながらも、
佐助が座っていた席に腰を下ろす。
「愛様はいつものですか?」
主人が柔かな顔で訊く。
「はい。お願いします」
とニッコリ微笑む。
それを見た幸村は佐助の言葉虚しく、
つい突っかかったものいいをするr。
『いつものって言われるくらい、秀吉と来てんのかよ』
言ってしまってから、
驚く愛の顔見てハッとするが、もう遅い。